奇妙ななつやすみの始まり
ふと、目が覚める。時刻は午前五時。
季節は夏だからか、既に日は昇り、地上を照らしている。
自室から出て、居間に向かえばそこに置いてあるのは作り置きでラップされた料理。
ばあちゃんは既に仕事に行ってしまったのだろう。
特に腹を空かせていないし、だからといって眠気は無い。
「…外にでも出るか。」
特にやる事がない今、外に出て散歩して腹を空かすのがいいだろう。
そうと決まれば後は早い。
自室に戻り、パジャマから普段着にへ着替える。
何も描いていない無地の白に、紺色のジーンズ。
友人からはオシャレじゃないと言われているが、なんやかんやシンプルがいい。
後ろのポケットに小さな財布を仕舞い、フル充電されたスマホを持って外へ出る。
誰もいないのに『行ってきます』と言うのには慣れた。
家を出れば、眩しい陽の光が差し込んでくる。
朝だと言うのに、かなり暑い。これも地球温暖化というやつか。
…さて、この何も無い集落の何処へ行こうか。
周囲は田んぼだらけ、コンビニも遠ければ、すぐ近くに公園も無し。
友達は少し離れたところに住んでいる。
あると言えば…、そこまで遠くない距離に川と高いところに神社があるぐらいか。
川で涼むのもいいが、神社に行くのも悪くない。
それに、あそこは周りが木で囲まれているから陽の光が差し込まない。
風も心地いいので残暑地には持ってこいの場所だ。
神社へ行くためにはそこそこ急な坂を昇る必要がある。
が…、まぁ、散歩だし足腰鍛えられるし問題は無いだろう。
それに、往復すると考えれば尚のことちょうどいい。
さっ、暑さが酷くなる前に行こう。
「朝早くなのに、あっついな。なにかタオルでも持ってくるべきだったかな。」
そう独り言を言いながら、坂道を登ってく。
この独り言も、ひとりでいることが多いから、癖として染み付いてしまった。
友人と遊ぶことは少ないし、家にいるのはばあちゃんぐらいだし。
ただ、喋らないと声が悪くなってしまうのをネット情報で見たことあるから、そうならない為にも独り言でも喋っている。
「ふぅ…、ふぅ…。」
息を切らしながらも、神社へと辿り着くが…。
一段一段の階段がやけに高い。そこまで段数はないんだが。
まぁここまで来たのだから、登らない他ないし、来た意味が無くなる。
一段、また一段と登り、ぜぇぜぇと息を上げながらようやく辿り着く。
「ふぃ…、着いた…。」
階段に座り込み、息を整えながら休憩する。
運動してもこの坂と階段には慣れないな。もう少しマシにならないのか?
暫し休憩し、息を整えてから立ち上がり神社の方へ向く。
大きな鳥居に、奥に見える小さな社と賽銭箱。
誰が手入れしているのか分からないが、落ち葉が無く綺麗な状態を保っている。
年季自体はかなり入ってそうだが。
「さて、と。」
折角来たのだから、なにかしら願い事をしようと思い財布から五円を抜く。
もちろん、願うことはただひとつ。
賽銭箱へ近づき、五円玉を投げつける。
手を合わせ、頭の中で浮かんでいる願いごとを口にする。
「普段から喋れる友達ができますように。」
正直、ここに神社は何を祀っているのかはわからない。
だが、どんな願い事をしようかは自由だ。
さて、賽銭入れて願い事をしたわけだし、家に帰ろうか。
そう思い、後ろを振り向く…が、突然ガサガサと鳴り響く。
ビックリして後ろを振り向くと社の後ろに黒いしっぽが見える。
なんだ猫かと安堵し、せっかくだから撫でようと近づく。
俺自身、猫はかなり好きな方なのもあるから。
だが、近づくにつれて、違和感を覚える。
しっぽにしては大きくないか?と。
それに、ふたつある。いやまぁこれに関しては二匹いるんだろうで考えられる。
考えられるんだが…。まず、しっぽ自体は細長い、この時点で犬か猫に縛られるのは当然のこと。
しっぽの長さ自体も犬より長いから猫なのはわかる。
だけど、何故こんなに大きいんだ?
「不思議、だな。」
その疑問を解決するべく恐る恐る、近づいてみる。逃げる様子は全くない。
明らかに普通の猫よりはるかに大きい。
社の向こうにいる猫を見ようと、覗く。
そこに居たのは、女の子の姿。
今どきとはちょっと多いミニスカとワイシャツを来ている人の姿。
だが、俺は頭にあるものをみて唖然としてしまった。
なぜなら、そこに本来あるはずの人耳がなく、代わりに猫耳があったから。
「うにゃん?」
その声をあげた人はこちらを見て静止する。
互いにみて、静止し、叫び声を上げるまではさほど時間がかからなかった。
そして、この日から俺の奇妙な生活が始まりを告げる。