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北極星は見ていた

 



 真夜中。静かで、月もないものだから、すべてが終わってしまうような暗闇が広がっていた。ミントカラーの軽自動車が一台ひた走っている。運転席には男性。助手席には女性。彼はコーラを飲みながら、彼女はサンドイッチを頬張りながら、和やかに談笑しているのが見て取れた。


「こういうのってなんて言うんだっけ。夜逃げ? 駆け落ち? 逃避行?」

「そんなつまらないものじゃないわ。これは革命よ!」


 再びストローから口を離した彼がこぼした問いについて、彼女は自信たっぷりに胸を張って宣言する。真っ赤に彩られた唇の端にマヨネーズがついているのを彼に指摘され、彼女はそれをぺろりと舐め取った。

 どうやらこのカップルは今夜、革命を為したらしい。大胆な発言だ。そう言われた彼もひどく愉快だと言わんばかりに笑っている。


「革命、か。いいなそれ。〈おれたちの革命はここからだ!〉ってな」

「そうよ、これはあたしたちの革命。とっても楽しいことを今から始めるの」


 うっとりと目を細めて、心の底から幸せを撒き散らすように微笑む彼女。無邪気にはしゃぐその様子は一国の姫と呼んでも差し支えがないほどに。


「じゃあ最初はどこから攻めていく?」


 姫の騎士はかしずいて手を差しのべるかのように訊ねる。彼女の願いは全部自分が叶えてやるのだと、それこそが自分がやりたいことなのだという思いが声に表れていた。


「寒くなる前に北の方へ行きましょ。美味しいごはんも食べるのよ」

「了解。宇宙一素敵な革命と洒落込もうぜ」

「さあ。スピードをあげて! もっともっと、誰も追いつけないくらいに!」


 彼女があげた勝ち鬨に応え、彼がアクセルを最大限まで踏み込む。ぐんぐんと速くなる車体は、汚さに塗れた世界を置き去りにしていく。彼と彼女の城はこのミントカラーの軽自動車。人ひとりいない夜道を縫うように、彗星のごとく駆けていく。

 狭い車内は明るい未来への期待で溢れていた。

 まさしく彼と彼女の革命の賜物であった。




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