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ばくぜんとしたふあん




 寝れない。

 寝返りをごろんと打つ。


「こんばんは! 漠然とした不安です!」


 なんか得体のしれないものが自己紹介してきた。


「こんばんは! 漠然とした不安です!」


 いや、聞こえていますよ。

 ぐちゅぐちゅしてもやもやしてこんもりして、でも宝石のように光る液体みたいな気体みたいな固体みたいな。地面に落ちたガソリンの色味が一番近いかも。

 そんな変なやつが壊れたように繰り返す。


「こんばんは! 漠然とした不安です!」

「こんばんは、漠然とした不安さん」

「はい! 漠然とした不安です!」


 ずいぶん元気のいい漠然とした不安だこと。

 布団を肩までかけ直す。今夜はやけに冷える。


「あなたはわたしが寝れない原因?」

「そうですね! 何せ漠然とした不安ですから!」

「漠然とした不安ってそういうものだもんね」


 形容しがたい。どうしようもなく喉が詰まって気持ちが悪い。身体全体に重しがされたように動けない。考えなくていいことばかり考えて、ぐるぐる堂々巡りのトラウマ探し。フラッシュバックに怯えて、頭を振ってもこんこんと湧き出る黒歴史。先の見えない恐怖がまとわりついて、これで本当にいいのかと自問自答しながら煩悶する。明日を迎えたくなくなる無気力感。

 何故かいきなり襲ってきやがるもんなあ、大変迷惑。


「漠然とした不安さんは消えてくれないの?」

「やや! なんと悲しい! しかし消えません!」

「わたしは寝たいんだけど」

「そういう時こそがこの漠然とした不安の出番なのですよ!」


 知ってる。ここぞとばかりにこんちくしょう。

 ふと焦燥に駆られるんだ。一日を思い出して反省と自己嫌悪したり、クソみたいなクソにクソな対応されて腹がたったの思い出したり。生きていくために必要な自分の削り方とか、周りとの差や環境の違いとか。色々と、ぞろぞろと、数珠つなぎに連想が始まって、思考が飛んでいくってさ。

 朝起きたらケロッとしていることがほとんどなのに。


「ねえ、こういうときどうすればいいのかな」

「ハハッ、どうしようもないです!」

「そっかー解せないわー」


 正体不明のはっきりしないもの。本来ならその時の感情として抱かなくても大丈夫だと思われるもの。就寝前なんて尚更。

 原因は何かだなんて探すのは不毛。漠然とした不安は本当にただ漠然としているから、それらの不安への正答はないよね。


「しょうがない、わたしが寝るまでならそこにいていいよ」

「ありがとうございます!」


 感謝されても困るんですが。実に厄介、厄介すぎて嫌になるけれど受け入れて流さないと。

 心のどこかでこの世界のすべてに期待しているふしがあるんだろう。いっそ何も信用しなかったらもっと生きやすいのかしら。全部全部たらればだ。

 

 漠然とした不安がますます増幅していく。


 これはまた寝れないなと、さっきとは逆側に寝返りを打つ。ガソリンみたいな漠然とした不安は視界からいなくなった。ため息をひとつついて目を閉じる。

 やだやだ、夜との折り合いをもっとうまくつけられるようにならなくちゃ。

 だから、ひゅんと音がした後から、顔の前にある圧迫感には無視をする。


「こんばんは! 漠然とした不安です!」


 うん、もうそれはいいってば。




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