とある古参のつぶやき
「いらっしゃいませ」という声がフロアに響くたびに私たちは身を震わすの。客が来たとわかるから。
注文は何かしら。それによって今日が決まる、明日が決まる。またここから誰かが連れて行かれて食べられてしまう。
知ってる、私たちは知ってるわ。だってその様子を、私たちは透明な壁越しに嫌でも見せつけられているのですもの。
オーダーが通る。その言葉に近くにいた、銀色の綺麗な子の血の気が引く。スタッフがもう一度確認のために読み上げる。間違いなく自分が注文された事実に、銀色の子は絶望の淵に沈んだ。
銀色の子は否応なく掴まれて、あっという間に向こう側に。せめてもの抵抗か、じたばたと足掻いていたけれど非力で弱い私たちにはどうすることもできない。一突きされたらもう終わりだ。
カウンターの目の前に置かれた私たち。ただここに囲われて、生かされて、大きくさせられて、注文されればそのとおりに引っ張り出されて美味しく頂かれる。
「お待たせしました」
銀色の子が変わり果てた姿であちらから出てきた。それを見て、私たちは悲しみしか無いけれど、客は嬉しそうにはしゃぐ。写真を撮る。ニコニコしながら手を合わせて、銀色の子だったものを頬張った。
「美味しい!」
その言葉に客は喜ぶ。店のスタッフも喜ぶ。私たちは落胆する。いずれはあれが自分たちの末路なのだから。
泣いてしまう。何なのだろう、この〈生け簀〉っていう場所は。仲間が食べられているところを、私たちはあと何度見なきゃいけないのかしら。
どうせなら、私を早く料理してくれればいいのにね。




