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眠れる浪漫のかたまりを

 



 竜が、発掘される。

 巨躯を以てして、優雅に空を舞う竜はもう幻想のものとなってしまった。いや、元々幻想の中のものでしかなかったのだが、ある日を境にその幻想は打ち砕かれた。

 発見されてしまったのだ。最初の竜はどこにでもありふれた住宅建設予定地の地中で見つかった。掘り起こされた竜には皮膚があり、肉があり、体液があった。化石化、ミイラ化しているのではなく、生命活動は止まっている(と思われる)のに、体細胞等の劣化は見受けられなかった。仮死状態や冷凍睡眠に似た状態なのではと議論も交わされたが、現代のあらゆる手段を用いても反応は無かった。

 第一例から続々と、竜は各地で発見されるようになる。諸外国もこぞって、竜の発掘に勤しんだ。人類は狂喜していた。

 何故なら「使える」ためである。

 竜。おとぎ話で語られていた一生命体が顕れてから、人々は収集した、解剖した、研究して暴いていった。どのような構造で構成で、そしてどう自分たちに役立つのかを。

 

 ――その結果、今はただ人類の資源として利用される物体の呼称が〈竜〉だ。

 

 認知されたときから、幻想は現実に変わった。発生のメカニズムだけはいまだ解明されていないが、そんなことはどうだって良いのだ。枯渇しかけていたエネルギー問題をクリアするために都合よく顕れてくれたものだと喜んで、竜は迎えられた。どこまでも保存可能で強大なその身体は今後とも重宝されるのだろう。

 わたしには、どうでもいいことだが。

 

 竜を、発掘する。

 思考は明後日の方向に飛んでいても、手は正確に動き、土を崩していく。土をあらかた重機で取り除いてからは原始的な道具で、竜に欠損がないように慎重に作業をする。この作業に対しての賃金は決して高いと言えるものではない。むしろ苦役と言っても過言ではないレベルで敬遠されている仕事のひとつだ。

 なのに、わたしはこの仕事に就いている。好きだから、竜に焦がれているから。他の奴らもそうだろう。そうでなければ締め付けも環境的にも体力的にも金銭的にも厳しいこんな労働をするものか。

 竜の種類によっては発掘作業中に体調不良を訴える者もいると聞く。昔の炭鉱場と似たような感じだろうか。古代遺跡しかり宝石採掘しかり、おしなべて未知を拓くことにはリスクが付き物なのだろう。

 とはいえ、そんなことは些末なのだ。魅せられてしまったがゆえ。逃げるなど選択肢にない。

 ――ぱちぱちと光にひらめく鱗がまぶしい。

 今回は白銀のきらびやかな竜だ。通常の竜より痩身で、しなやかさを全面に押し出したようなフォルム。口元から伸びる二本の髭が愛らしい。なめらかなたてがみが風にそよげば、付着していた砂がこぼれていく。サイに似た角は宝石のごとく艶めいているが、感触からして案外やわらかい形質と思われるため注意する。

 脈々と、いのちを感じられそうなその身体。

 体躯に比べて小さな腕の、その爪の先までやさしく払ってやる。この竜も発掘が終われば回収され、公的研究機関によって分割、供給、消費される。こんなにも美しいのに、その美しさなどに意味はなく問題にもならない。それがひどく悔しくもある。

 

 無機質な機械音声が響いた。どうやら昼食時間らしい。周りの作業員も頭を上げ、はしごを昇って決められたプレハブへと向かう。今日の食事はなんだろうか、またカロリーバーとサプリメントゼリーとミートビーンズと言ったところか。

 このペースならば明日にでもこの竜の発掘は終わるなと名残惜しみながら、わたしも作業道具をしまい、配給場所へと足を運ぶ。

 何か不思議な物音が聞こえた気がしたが気のせいだろうよ。

 そうであればいいと強く思うがゆえの幻聴だ。振り返り、動かないままの白銀色を目におさめてから今一度歩き出す。

 

 願いのままに生きている。願いのために手を動かし、身を粉にしている。もはや自己など二の次に。

 願っている。わたしの手で生きた竜を発掘できたなら。長い眠りについていただけの竜をやさしく揺り起こすことが叶ったなら。息を吹き返し、吠える竜の声を聞けたなら。いつか幻想に描いたような、強靭な翼で力強く優雅に空飛ぶ竜を見れたなら……。

 そんな甘い妄想を浮かべながら、わたしは土にまみれるのだ。

 

 竜よ、どうかわたしに。

 竜よ、竜よ、発掘されろ、と。




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