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夢でまた会いましょう

 



 頬に優しい風を感じて、目を開けた。ここはどこだろうと辺りを見渡しても記憶にない場所。地平の彼方までひらけた野原に、ひとり座っていた。


(知らない風景ね……)


 ぼんやりとする思考を覚醒させなければと思うが、靄がかったみたく判然としない。自分が自分でないような、自分を俯瞰で見ているような、とても不思議な感覚。敵の襲撃によるものかと勘ぐるも、攻め込む次の一手が来ないのは明らかにおかしい。

 それにどうやらいつもよりも空が近い気が。


「あら?」


 どこからかリンゴが転がってきて、足に触れた。やけに小さなリンゴだ、すっぽりと手の内に握りこんでしまえそう。木も無いのに何故という疑問はすぐさま氷解した。

 リンゴが蠢きだしたからだ。こちらが動く隙も与えず、それはボコボコと変形し、やがてよく見知った形をとった。


「元気でやってる?」

「姉様? 久しぶりね、少し背が縮んだ?」

「違いますー。アンタが大きくなってるだけよ」

「ああ……合点がいったわ。夢なのね、これ」

「そう、夢。あたしもアンタが見てる幻影に過ぎないわ」


 穏やかな夢だ。自覚し、枷から解き放たれたように、身にまとわりついていた煩わしさが皆無となる。

 清涼な空間とはこの事。時間停止魔法を使ってもこうはならない。静謐ではあるだろうけれど、ここにたゆたう空気はそれとは別物だ。風が甘く、懐かしささえ孕んでくすぐってくる。


「ずいぶんと気持ちよさそうね」

「……だって気持ちいいもの。でもどうして私こんなに大きくなってるのかしら」

「いっぱい歩けるように、とか?」

「それはいいわ。なら姉様、目が覚めるまでこの夢の中をご一緒にしてくださいませんこと?」

「謹んでお受けしてあげようじゃない」


 足下にいた姉様を傷つけないよう、慎重に掬い上げる。がしゃりと鎧が立てた音がやけに間抜け。

 かなり距離があったのにお互いの声が聞き取れていたのも夢だからだろうか。彼女を手のひらに乗せると、顕著に大きさの違いがわかって、少し驚いた。


「肩に乗るといいわ、安定する。今の私、都のお屋敷くらいあると思うから」

「騎士団の誰よりも大きな体になっちゃった?」

「ええ、これじゃワイバーンも乗せてくれないかも」

「あはは、きっと潰れちゃうもんね」


 ゆっくりと立ち上がると、さらに近くなる青と、どこまでも続く緑。踏み出せば草がさくさくと鳴く。姉様の白魚のような指が私の頬を撫でる。私たちは風に背を押されながら進んでいく。

 勿論、警戒は怠らない。慢心ゆえの油断なんてしない。幻術のたぐいを仕掛けられている可能性も拭えてはいない。

 

 とはいえ少しくらい幸せな夢を堪能してもいいでしょう?


 夢だし、歩いていたら、もしかしたら父様や母様にも会えたりして。この世界に空想獣はいないか散歩ついでに探してみるのも面白そう。だってこんなに大きくなったのだもの。いるならきっとすぐに見つけられる。

 足取りは風に舞う羽か綿毛のように軽い。たまには予定にない、秒単位ではないスケジュールを組んでみるのもいいかもしれない。国も部隊も何も気にせず穏やかに、時間の流れを楽しんで。

 夢の中だけでも、夢の中だからこそ――……私はひとりごちる。肩に乗せた姉様の温度はあまりにもやさしくあたたかだった。




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