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ネイキッドラブ&プラネットピース




 おれは裸族である。だが時と場合と場所はわきまえているので自分の部屋でしか全裸にはならない。

 勿論ちゃんと身内にも配慮している。二階の角部屋、その扉を開けてリビングやキッチンに行くときにはちゃんと何かを羽織る。局部が見えなければいいのだ、家族だし。母ちゃんも姉ちゃんももう受け入れてくれている、呆れ尽くしただけかもしれないけれど。

 えっ? 外出するときは服を着るよ、当たり前だろう。おれにだって羞恥心はあるんだから。

 裸族であって、おれは露出狂じゃないのだ。


「……えー」


 だからおれは今、生まれたままの姿なのである。

 自室内に吹きすさぶ風。びゅーびゅーごーごーばりばり。空が変にどす黒く、雲が渦を巻いている。漫画や小物が巻き上げられてどこかへ行くのを他人事のように眺めてしまう。

 なぜその光景が見えるのかって?

 だって屋根と壁の一部がない。見晴らしが滅茶苦茶いいぜ。うちの戸建て、まだローン残ってるって父ちゃん言ってた気がするのに。何してくれてんだ。


「……まじでなんなん」


 荒れ狂う天候の中、おれの頭上高く静止している物体。屋根をぶっ飛ばしたそれがゆったりと高度を下げてきた。じっくり観察するまでもなく、どう見たってUFOである。徹頭徹尾、よく映画で見かけるようなオーソドックスな小型宇宙船。

 唖然とするおれ。一糸纏わぬおれ。この状況でまともに思考できるわけがない。そうだろ?


「おー……?」


 UFOの下部には円形の空洞。ビームでも打つのか。これ以上の破壊はやめていただきたい、切に。

 動けずにいると、空洞が淡い光を帯び、降下してきていた機体がまた止まった。ふよふよとホバリングするわけではないんだな。

 淡い蛍光オレンジの光が収束し、こちら側に向けて発射された。みゅわわわって効果音でも鳴りそうなほど、古典的なSF感が強い。その光の端から見えるのは人影か?

 長い青緑の髪。しなやかでつややかな手足。ギラギラと鋭く長い爪。たわわな胸。とろりとした不思議な質感のワンピースみたいな服から覗く尻尾。額に二本の角もあるから紛うことなき宇宙人さん。おれの部屋の床に音もなく着地して。閉じられた瞳が静かに開く。うわあ、すっごい美人。


「……はじめまして、じゃな。言語は通じておるか?」

「あっ、はい。通じてます」

「それは何より。早速じゃがわしは……、ッぎゃああ!? は、破廉恥じゃあ!?」


 破廉恥って。今日び聞かない言葉ですね。というかおれ何も着てなかったな、やばい、不敬罪で打首とかはおやめください。失念していただけなんです。咄嗟に隠せるようなものも何もない。詰んだ。


「おおお……何たる……ッ!」

「その、面目も、ございません」

「異性の裸体を見てしもうたからには……わ、わし……」

「?」

「お主を婿入りさせねばならんのか……!」

「へ?」

「だ、大丈夫じゃ! 責任はとる! わしの甲斐性を見くびってもらっては困るわい! ええい、女は度胸! 気風よくお主を貰い受けようぞ!」


 出会って十秒も経ってないのに求婚された。違うな、これは死にたくなければ結婚しろという脅迫だな。だって断られたらどうとか物騒なこと言ってる。穏便に地球征服したかったのにとかぶつぶつ呟いてる。ぷるんぷるんな唇から、ちらりと覗いた牙めっちゃ鋭かった。お主の見目は存外悪くないしと仰っていただけて光栄です。


「……で、返事は!」

「は、はい! どうぞよろしくお願いします!」

「良き返事! 愛い婿殿じゃあ! なれば地球世界へのご挨拶は先送りとし! 今から式の準備にかかるとしよう! 挙式が終わればハネムーンに繰り出し! 素敵な蜜月を過ごすとしようぞ!」

「はいッ!」


 え、ナニコレ。

 恐怖と勢いでつい承諾してしまったが展開が目まぐるしくて理解が追っついていない。婿入り? おれまだ高校生ですが? なんなら童貞街道まっしぐらのもっさいモブですが?


「そうじゃ、まだ名乗ってもおらんかったな。わしはアルケミュロス銀河ポンボーネット星の第二王女フルファネイアと申す! このわしが御前様の嫁となったこと、けして後悔させぬ。甘美でめくるめく陶酔の日々を送ろうぞ!」

「おれは山田太郎です。名乗ると大抵びっくりされますが本名です」

「タロウとな! かーっ! 御前様は名前も愛いのう!」


 ぎゅむっと圧縮された。姫さまおれより背が高いんだなあ。やわらかい腕とやわらかい乳による暴力。これは俗に言うハグか、果物みたいないいにおいする。おずおずと姫さまの背中に手を回すとおれを抱く力が強まった。


 もう、ぜんぶ、どうでもいいやー。


 蛙が潰れるような声が出て、酸素が足りない頭でぼやっとしていると、ふよよよとUFOからオレンジ光線がおれと姫さまに向かって発射される。おれたちを補足したところで光は縮み始め、体はUFOの方へ引き寄せられていく。


「……どうしておれを夫にしてくれるんです」

「ぬう? 年頃になった娘は異性の裸体……というかイチモツを見ることがあればその異性を貰い受けねばならんと掟で決まっとるじゃろう? 神の采配じゃ。おまえにはその男こそがふさわしいというな。……御前様の惑星では違うのか?」

「いやそんなことないです肌を見せ合うのは恋人ないし夫婦間だけが望ましいとされていまして婚前交渉といいますかそのそういった、」

「はっ! それともあれはイチモツではなかったと? 地球のヒトについては学んできたのじゃが、間違って伝わっている部分も無いわけでは無いしの……! あわわ……」

「いえ大丈夫です、あれはおれのイチモツです」

「な、ならば安心じゃの! ふふん! 御前様がわしにはピッタリだと言うことじゃ! そろそろわしも伴侶が欲しいと思っとったところじゃし運命よな! これから存分に愛を育もうぞ!」


 何をキメ顔で口走ってるんだろうね、おれ。しかし、どうやら伝統や因習をしっかり守るタイプの宇宙人さんだったようで。あれ? 待って、これ逆玉の輿? ラッキー? おれはあまり物事を深く考えないたちなので美人なお嫁さんと結婚できるならこんなに嬉しいことはないんだけど。


 そんなふうにウキウキしていたのも束の間。

 

 宇宙船に入り、ふかふかソファに姫さまと並んでいちゃいちゃ座っていたら手渡されたのは思念通信機というもの。それは母ちゃんと姉ちゃんからの連絡で。家族へのアフターケアも抜かりない姫さまさすが。

 そりゃ驚くよね。家も息子もこんなことになってんだもん。フィクションじみてて笑えるよなって気楽な思いで通話に出たら、予想どおりのことと予想外のことをまくしたてられて顔筋と自律神経がバグった。

 予想どおりのことはいいとして、冷や汗をかいた予想外のこと――全裸でアブダクションされるおれの姿が全国放送で大々的に中継されてたんだって。は、恥ずかしすぎる。父ちゃんが母ちゃんたちの後ろでぼそぼそ励ましの言葉をくれた、ありがと。


 裸族のみんな。尊厳のためにもせめてパンツだけは履いておくべきだ。これはおれとの約束。いくら遠目でもモザイクかかってても大きさと動きはわかってしまうのだから。多くは語るまい、そういうことだ。

 おれは露出狂じゃないのに、と肩を落としてもあとの祭りになってしまうのは、金輪際おれだけでいいよ。いや、こんな事態に巻き込まれるのはおれ以外にいないか。パンツ履いてたらこの婚姻にも至らなかったわけだけれども恥との天秤にかけるならどっちがいいんだろうね。


「タロウの好物を教えてくりゃれ? ちなみにわしの得意料理はゲノヴィアッジョのムムメサ煮込みじゃ」

「ゲノもムムもわからないけど煮込み料理は好きだよ。好物はロールキャベツ」

「わしの煮込みは天下一品じゃぞ! ロールキャベツこそわしはわからぬ……。地球の料理も学ばねばならんのう」

「姫さま甲斐甲斐しい……!」

「ぬっ、いかんぞ御前様? わしのことはネイアと呼んでおくれ」

「……ネイア」

「きゃーん! 何じゃタロウ? ターローウ〜?」


 姫さまの惑星に着くまではお互いのことをよく知りましょうのターンである。お義父さんとお義母さんにご挨拶に行きます。そこからはうちの家族も交えて衛星中継会合の予定。どうやら惑星間でウェブ会議が出来るみたい、ハイテク。

 これから忙しくなるのかな。一人のときは裸で過ごしても大丈夫かが最大の懸念だけれど怖くてまだ訊けてないから、ちゃんと伝えなきゃな。せっかく裸が結んでくれた縁なんだし、姫さまも許してくれるだろう。


「ネイア、おれ服があんまり好きじゃなくてさ」

「ほう? だからタロウは一糸纏っておらなんだか」

「TPOは考慮する。ただプライベート……部屋に一人でいる時は脱いでてもいい?」

「うむうむ、許そう。だが一人の時に加え、今のようにわしと二人っきりの時は構わぬぞ……?」


 姫さまの銀河みたいな瞳の奥にハートがちらついた気がした。そういえばまだ真っ裸のままでしたね。姫さま、なかなかあけすけで大胆で積極的でいらっしゃる。

 キスしたくなったのは仕方ない、悪くない。だってこんなにもお嫁さんになってくれる宇宙人さんが可愛い。触れるだけのファーストキスで鼻血が出たのは夫婦ないし家族内での語り草になるな、むしろ鉄板の笑い話にしよう。

 結論。おれ、裸族でよかった!!




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