物理と精神の地平を
彼の瞳には世界はどう見えているんだろう。そう考えてしまう。
私とは立っている場所が、人間として見ている景色が違う。スケールが大きすぎて自分には理解が追い付かない。高学歴だとかイケメンだとかそういう分野でじゃない。地平として上か下かだ。世界全体をどの高さで見つめることが出来ているのか。
彼は精神的に明らかに高い。俯瞰して広く見つめている。言葉にするならランク、質、器……凡人では至れないところに彼は在る。観測できるものの違いがたくさん。
私みたいな奴は底辺も底辺、だから彼は一番下の地べたから見上げるばかりの眩しい存在だ。そういう人間は正直羨ましいし格好いいし凄いと思うし、反面怖いなとも危ういなとも思う。理解されないことも、賛同も共感もされないことも恐らくありふれているだろう。一般の範疇外ゆえになんかムカつくって思われることも、気持ち悪いと恐れられてしまうことも多分。無視も迫害も往々にして起こりうる。
まだまだ垢抜けない彼。かかるプレッシャーはとてつもなく重いはずなのに。ワクワクを皆に際限なくプレゼントしてくれるその姿はサンタさんみたいで。光触媒にまつわる開発のことは思い出す度に胸が踊る。
そんな彼の負担を少しでも減らしてあげられたら、荷物を背負ってあげられたらと思った。隣にいたらまたとんでもなく面白いものも見れるだろうしと、助けになれるかはわからないけれど浅ましくも夢を描いて。
そうして、私はここにいる。私は私の仕事をするのだ。彼の声を、その指示を聞きに、パンプスの踵を鳴らしながら。
人間として私は彼の領域には至れない。だからせめて物理的に同じ高さで一緒に見るものを共有したい。単なる我が儘だし自己満足。それでいいのだ。
目算でだいたい六センチ。ちょっぴり自分より高い目線の年下と同じ世界を見ていたい。この湧き上がって止まらない気持ちは何なのだろう。名付けることは、今の私には出来ない。
だから、自分の欲求に忠実に動こう。今日も背筋を伸ばして、年上らしく余裕のある笑みを浮かべて、傍に立とう。
「おはよう」
「おはよーございます、先輩」
挨拶ひとつ、視線の位置をぴたりと合わせて。
彼の瞳は相も変わらずとても綺麗だなと思いながら、私はいつもどおり肩を並べてみた。




