1.仕事何時に終わりますか!
初心者なのでお手柔らかに。
「先生ー!今日は何時に仕事終わりますか!」
人気のない廊下で一人の女の子が話しかけてきた。
「今日はもう仕事残ってないから一緒に帰れるよ。」
そういうと、彼女は目を輝かせた。
「一緒に帰れるんですか!?やったー!!」
廊下に響き渡るほどの大きな声に、思わず俺はだれか近く
に人はいないかとあたりをきょろきょろと見回した。
「だからもう少し声量を抑えてくれって。ほかの先生に聞
かれていたら後でめんどくさいんだから。」
「嬉しんだから仕方ないじゃないですか!!」
周りに人がいないことを確認して大きく息を吐いている俺
に対して、少しだけ声量を抑えた彼女は笑みを浮かべている。
「気を付けてくれよほんとに。あと十五分後くらいで学校
を出るからいつもの公園で待っててくれ。」
「はーい!わっかりましたー!」
スキップをしながら昇降口のほうに向かっていく彼女を見
ながら、このやり取りは何回目だろうと考える。職員室に戻
って帰り支度を済ませて時計を見ると、彼女と別れてからも
う九分も経っていることに気づく。俺は職員室を出て、昨日
のオムライスを作ったときちょうど卵と牛乳を使い切ったっ
けな、などと考えながら、少し急いで彼女の待つ公園へ向か
う。
公園につくと、ブランコに座りながら単語帳を読んでいる
彼女がいた。彼女の名前は成宮由衣。美浜高校に通う二年生
だ。肩より少し下まで伸びたの艶のある髪にくっきりとした
二重、すらりとした鼻にかわいらしい口。誰が見ても美女と
いえる。噂で学校に彼女のファンクラブがあると聞いたこと
があるが、ただ単語帳を読んでいるだけでもなぜか様になっ
ているその姿を見て、確かにあっても不思議ではないなと思
う。ブランコに座る彼女のほうへ歩み寄ると、それに気づい
た彼女は俺、渡辺康太を見て、手に持っている単語帳をリュ
ックにしまい、ブランコから立ち上がる。
「お待たせ。そういえば卵と牛乳を切らしていたから近所
のスーパーへ寄ってっていいか?」
「もちろんです!どこへでもお供します!」
そういって歩き始める俺に、彼女はくっつくように俺の隣
に並ぶ。俺の身長は百七十五センチで、俺の顎のあたりに彼
女の頭が来るから、たぶん彼女の身長は百六十あるかないか
くらいだろう。
「そういえば成宮って身長いくつなんだ?」
「今ちょうど百六十です!先生は百七十三とかですか?」
「惜しいなー。百七十五センチなんだな。」
「カップルの理想の身長差って十五センチらしいですよ?
ってことは私たちやっぱりお似合いじゃないですか!?」
「そしたら全国の百七十五センチの男性みんなとお似合い
だな。」
「もー!!」
そんなくだらない話をしながら二人で近所のスーパーへ向
かう。スーパーに着き、卵と牛乳をカゴに入れてレジに向か
おうとすると、手にお菓子を持った彼女が買ってくれといわ
んばかりに俺の服をぐいぐい引っ張る。仕方なくそのお菓子
もカゴに入れると、彼女はルンルンしながらレジに向かって
いく。
会計を済ませ、スーパーを出て歩き始めると、また俺の隣
に並ぶようにして彼女も歩き始める。
「今日の晩御飯はお肉かお魚どっちがいいです―」
「肉」
今日の晩御飯のレシピを聞いてくる彼女に対し、俺は食い
気味になってそれに答える。それを聞いた彼女は腕を組みな
がらどのお肉料理にしようかと考えている。
冷静に考えてみれば、自分の勤めている学校の生徒と一緒
にスーパーへ買い物に行き、晩御飯は何がいいかと聞かれて
いるのは明らかにおかしなことなのだが、いつからこの状況
に違和感を感じなくなっていた。どうしてこんなことになっ
たのか、と彼女と出会った日のことを思い出しながら今日も
二人の家に帰る。
最後まで見てくれてありがとうございました。