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偽りの母子だとしても-SIDE:ダイアナ

※ここからダイアナ視点になります。


 昼過ぎ。ワタシはリビングの窓を開け放ち、作業服の袖をまくり上げた。

 手には鳥の羽で作った埃はたき。

 リビングの中央に設置した椅子とテーブルは、あらかじめ部屋の端へ寄せておいた。


「お掃除頑張りますか……!」


「ますか……!」


 ワタシはわざと言葉を口に出して気合いを入れる。

 隣に立っていたクロも両手を握り締めて、ワタシの真似をするように気合いを入れた。


 シズとエイラは朝早くに遺跡へ向かった。

 クロは熟睡していたので見送りができなかったため、朝食を食べながら頬を膨らませていた。

 お腹が膨れると怒っていたことを忘れてしまったのか、家事の手伝いをしたいと言い出した。

 留守番をしながらクロの看病をしようと思っていたけど、当人は元気が服を着て歩いてるような状態だった。

 絵本を読み聞かせながら二人の帰りを待つのもよかったが、半日以上眠って元気があり余っているようだった。

 というわけで、家の掃除をクロに手伝ってもらうことにした。


「ワタシが天井の埃を落とすから、クロは箒でゴミを集めてくれるかしら」


「りょーかいっす!」


「あはは。ヨシュアくんの口癖がうつってる」


 埃はたきを使って天井や棚上の掃除を行う。

 お手伝いできることが嬉しいのだろう。

 三角巾を頭に被ったクロは、目をキラキラと輝かせながら箒で床を掃いていた。


 クロは好奇心旺盛で、ワタシが家事を行うと目を輝かせて近づいてくる。料理にも興味があるようだった。

 料理が下手なワタシは、残念ながらクロの先生になれそうにない。帰ってきたらシズに相談してみよう。


「せっかくだから、ワタシも教えてもらおうかしら」


 ワタシは掃除を行いながら、シズとのやり取りを妄想する。


「美味いぞダイアナ。やればできるんじゃないか。さすがは俺の嫁。完璧すぎて怖い。このまま、もう一品作っちゃおうか。きゃっ、なんでお尻触るのエッチ。そういうのは大人になってからだってば。なんだよ、体はもう大人じゃないか。胸も大きくなって。え~、そうかな~? そうさ。今からもう一品作っちゃおうぜ。俺とおまえの子供をさ! なんてねなんてね!」


「ママ、うるさい」


「はい。ごめんなさい……」


「パパが帰ってくる前にお掃除を済ませて驚かせようって言ったの、ママでしょー。未来のことばかり見てないで、ちゃんと今を生きて」


「返す言葉もございません……」


 幼児に人生を諭されてしまった。

 クロは腰に手を当てて、ぷくりと頬を膨らませている。

 シズの前では甘えん坊だけど、ワタシと二人きりだとしっかり者な面も見せてくる。

 もしかしたら、まだワタシをライバルと思っているのかもしれない。

 ワタシがペコペコと頭を下げていると、クロは寂しそうに窓の外を見つめた。


「ママ。パパはいつ帰ってくるの?」


「早くても夕方過ぎじゃないかしら。調査が難航したら明日になるかもしれない」


「むぅ~。ずっと一緒だって約束したのに……」


 ワタシの答えが不服だったのか、クロは蛙みたいに頬を膨らませた。

 ワタシは一度掃除の手を止めてクロの前にしゃがみ込み、できるだけ優しく頭を撫でた。


「大丈夫、パパは必ず約束を守ってくれる。これからもずっとクロのそばにいてくれるわよ」


「ママは? ママもずっと一緒?」


「もちろん。ママもずっとクロのそばにいるわ」


「えへへ~。ママ、だぁい好き」


「……うん。ママもクロが大好きよ」


 なんだ。クロはやっぱり天使じゃないか。

 独り占めされるのが怖い、だなんて思っていた自分の方が子供だ。

 クロは、3人一緒がいいと思ってくれている。家族を想う気持ちはワタシと同じなんだ。

 ワタシは居ても立ってもいられなくなって、クロの体を抱きしめた。


「クロ……」


「えへへ。くすぐったいよぉ」


 ワタシはちゃんと”ママ”をやれているだろうか。


 6歳まで王宮で暮らして、いきなり故郷が滅んで。

 パヴァロフに亡命してからも、側仕えのメイドがワタシの面倒を見てくれた。

 シズと冒険に出たあとは、戦いの毎日だった。


 だから、子供の扱い方はよくわからない。他人との接し方すら怪しい部分がある。

 けれど、シズは笑顔でワタシを受け入れてくれて。

 クロもワタシに甘えてくれて……。


「何があっても、ワタシたちがクロを護るからね」


 もう一度、今度は強くクロの肩を抱き締める。


 クロと出逢って日は浅いけれど、この時間を失いたくないと思った。

 わがままだとわかっている。けれど、想いは口にしないと叶わない。

 無様でもいい。必死にあがかないと、大事なモノは何ひとつ護れやしない。

 ワタシはそうやって生きてきた。

 あの人はそんなワタシを笑って受け入れてくれた。

 今さらこの生き方を変えるつもりはない。

 だから――


「聖神教会の者です」


 不意に入り口のドアがノックされた。

 聞き覚えのない男性の声がドアの向こうから聞こえてくる。

 教会の関係者だろうか?


「クロはお掃除の続きをしててね」


「は~い」


 念のためクロを奥の部屋にやり、ワタシはドアを開いた。


「お初にお目にかかります。私の名はロッシュ。聖神教会の神官をしております」


 戸口に立っていたのは、聖神教会の修道服に身を包んだ初老の男性だった。

 見覚えがない。狭い村だ。たいていの村人とは顔なじみなのだけれど……。

 ワタシが怪訝な表情を浮かべていることに気がついたのだろう。男性は胸に手を当てて頭を下げた。


「失礼。クロさんの件で、シスタークレアから言伝があったと思うのですが……」


「クロの件で……?」


 教会にはクロの身元を調べてもらっていた。

 何かわかったのかもしれない。

 ワタシはドアを開いて神官を家に招き入れた。


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