家族の誓い
「断る」
俺は首を横に振った。
「大人の都合で子供を振り回すのは可哀想だ。どうするかは本人の意志を聞いてからだ」
「クロは優しい子なの。悪戯に周りへ危害を加えるとは思えない。万が一の場合があったら、その時は――」
「俺とダイアナで、クロを護る」
俺とダイアナは手を繋ぎ、正面からエイラを見つめる。
俺たちの言葉を受けてエイラは――
「おまえたちなら、そう言うだろうと思っていたよ」
苦笑を浮かべて緊張の糸を解いた。
「確かめるような真似をして悪かったな。だが、私にも立場がある。断られたからと言って、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない」
「規則に縛られるのが嫌いで森を出たエイラが、まさかお役所仕事とはね。人間……いや、エルフも変わるもんだな」
「仕方ないだろう。エルフの女王ロリッサさまは絶世のロリなんだぞ? 名前からして反則だろう? そんな女王に猫なで声で『お願い。世界の危機を救ってニャン』なんてお願いされてみろ。濡れるっ!」
「濡らすな!」
クロを寝かしつけておいてよかった。エイラの話を聞かせたらクロの知性が下がってしまう。
「とりあえずは神殿の調査を進めるべきだろう。儀式の件も憶測に過ぎないからな」
そんなエイラの提案にダイアナが困ったように唸る。
「うーん。だけどあの神殿、ギルドの調査が入ることになってるのよね。相手と鉢合わせないために先に向かおうとしたんだけど」
「クロが熱を出して倒れちまったからな。すでに探索者がパーティーを引き連れて出発してる頃だろう」
「それなら心配はいらん。ギルド経由で調査依頼を出したのは私だ」
「えぇっ!? あの依頼主ってエイラだったの?」
「ああ。これでも特級クラスの探索者だからな。シズよりランクが上だ。敬うがいい」
「へいへい。特級さまはお偉いですね。靴でもお舐めしましょうか?」
「おまえ、そういう趣味があったのか。付き合うダイアナも大変だな……」
「ただの皮肉だよ! 俺はノーマルプレイしかしない!」
「ワタシはちょっと強引なのが好きだけどね」
「ダイアナさんっ!?」
まさかの告白にツッコミを入れてしまう。
そうか。それなら今度、ちょっとハードなプレイに挑戦してみよう。
「案内役も兼ねて村にいる高ランクハンターを募るつもりだったが、ちょうどいい。おまえらを連れて行こう」
「ワタシは残るわ。エイラなら精霊力の感知もできるでしょ。クロの看病も必要だし」
「いいのか? あんなに調べたがっていたのに」
「正直、迷ったけど……」
俺の問いかけに、ダイアナは苦笑を浮かべて天井を見上げた。
「今はクロのそばにいたいの。不安なときほど人肌が恋しくなるものだから」
「そっか……」
ダイアナも母親らしいことを言うようになった。クロと接してるうちに母性が目覚めたのかもしれない。
「わかった。それなら私とシズで調査を行うことにしよう」
エイラは頷くと、壁から背中を離して2階へ通じる階段へ向かった。
「今から遺跡に向かうと到着する頃には日が暮れる。明日の朝、改めてギルド前に集合だ」
「おいこら待て。どこへ行くつもりだ。その先は寝室だぞ。俺と一緒に寝るつもりか」
「なんだシズ。可愛い嫁さんがいるのに火遊びか? すまないがおまえは私の趣味ではない。10歳は若返ってから出直してこい!」
「出直すのはおまえだ! ドサクサにまぎれてクロに夜這いをかけようとしていただろ!」
「ドサクサになど、まぎれていない! ごくごく自然な流れだ! クロの身に何が宿っているかわからないんだぞ。身体の隅々まで調べる必要がある。せっかくなので朝までコースでお願いします。延長料金は前払いでどうだ!」
「どうもこうもない! いますぐ帰れ! この万年発情期のヘンタイエルフ!」
俺はエイラの身体を抱きかかえると、遠慮なく外へ放り投げた。
エイラは腕も確かだし、黙っていれば美人なのにな。
天は二物を与えずとは、このことだろう……。