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バロールの目を破壊せしもの

「無差別級ヘンタイエルフなんて、こっちから願い下げだ!」


 俺はクロを背中に庇いつつ、左腕のガントレットでナイフを弾く。

 投げナイフは牽制だ。今の攻撃で相手の出方を窺おうとしたのだろう。


「まだまだいくぞ!」


 エイラは相手に動きがないと見るや、背中に担いでいた矢筒から木の矢を2本取り出した。

 しかし、その手に弓は持っていない。

 徒手空拳のまま、何もない空間で”弦”を引き絞ると――


現れ出でよ(イヴァル)! バロールの目を破壊せしもの、超弓タスラムッ!」


 エイラが召喚呪文(コマンドワード)を唱えると、白亜の弓が出現してその両手に収まった。

 エイラも俺と同じように神具を召喚できるのだ。


「型落ちの神器だが、雑魚を倒すには十分だ」


 矢を2本取り出したのは、確実に相手を狩るためだ。

 エイラは狩人としての腕も一流。己を過信しない。

 口では挑発的な物言いをしているが、それも相手の感情を揺さぶり、狩りを行いやすくするため。

 俺はその場から一歩も動かず、ガントレットを構えて防御態勢を取った。


「守りに入ったか。懸命な判断だな。だが、私の実力はおまえも知っているだろう?」


 エイラは矢をつがえたまま言葉を続ける。


「生まれたエルフの村では【神弓】と褒めそやされ、今では銀髪が眉目麗しいちょい悪お姉さまとして、多くのロリエルフに尊敬と愛情の眼差しを向けられている」


「おい! 後半のモテ自慢はいらないだろ。冴えないオッサンに対する当てつけか」


「ははは! 勇者シズ破れたり! 自らをオッサンと称したな」


「なにっ!?」


「人は歳を重ねるからオッサンになるのではない。若い自分を捨て、老いを言い訳にした瞬間からオッサンになるのだっ!」


「ぐぅ正論!」


「出逢った頃はギリギリショタ枠だったが、身も心もアダルトモンスターになったおまえに生きる価値はない! 潔く死ねぃ!」


「そんな理由で死ねるか!」


 エイラは路地裏に怒号を響かせながら、矢を放った。

 それを合図に俺は身を翻して射線から逃れる。

 狙いがはずれた矢は、一直線に背後の壁へと向かって――



「ピギャっ!」



 壁のさらに上――民家の屋根で身を潜めていたゴブリンの眉間を貫いた。



「もう一匹いるぞ!」


「騒ぐな。すでに終わっている」


 エイラは後ろを振り返らず、空に向けて二撃目を放った。

 矢は綺麗な曲線を描き、その場から逃げ出そうとしたもう一匹のゴブリンの背中に命中した。


「ヒギァァ……!」


 背中を射貫かれたゴブリンは短い悲鳴をあげ、路地に落下する。

 全身をしたたかに打ち付けたゴブリンは、這々の体(ほうほうのてい)でクロに手を差し伸べた。


「ミ、ミコさま…………」


 まるで助けを求めるかのような、ゴブリンのうめき声。

 俺は無残な最期を見せないようクロの顔を体で覆い隠した。


「パパ、あの緑の人は……? なにがどうなったの?」


「もう終わったから安心していい」


 俺がクロの頭を撫でている隣で、エイラは空中に弓を投げ捨てる。


戻れ(アシヴァル)


 短いコマンドワードと共に、弓は瞬時に姿を消した。

 エイラは2本目のナイフを鞘から抜くと、地べたで這いつくばっているゴブリンの前でしゃがみ込んだ。


「おまえには聞きたいことが森ほどある」


「ギギィ……!」


「笑っていいんだぞ? 今のは小粋なエルフジョークだ」


 エイラはサディステックな笑みを浮かべて、ゴブリンの頬にナイフの腹をペチペチと押し当てる。

 矢のダメージもあってか、ゴブリンは狼狽しながら身を退けて――――


「シャァーーーッ!!」


 後ろを振り返り、懐に隠し持っていた竹筒を構えた。


「吹き矢かっ!?」


 狙いは――――俺っ!?



「ダメぇぇぇっ――――!!!!」



 吹き矢が放たれようとしたその直前、クロが大声で叫んだ。


「ググゥゥ…………」


 叫び声が路地に響いたと思ったら、ゴブリンは突然口から泡を吹き出した。

 数秒もしないうちに手足から力が抜け、その体は灰となって消えてしまう。

 むなしく路地に転がる吹き矢の筒。それと村人の服……?

 ゴブリンの最期を確認したあと、俺はエイラに問いかけた。


「自害したのか?」


「そんなはずはない。ゴブリンは狡猾で生き汚いド畜生だ。自らの死を選ぶくらいなら、死にものぐるいで襲いかかってくる。最後の一撃を放とうとしたようにな」


 エイラは吐き捨てるようにそう呟いたあと、灰の中から金の鉱石を拾いあげた。

 しばらく鉱石を見つめた後、興味がなさそうに溜息をついて俺に投げ渡してきた。


「魔石におかしなところも見当たらない。単純に力尽きただけか。それとも――」


 エイラはクロに意味深な視線を向けてくる。

 クロは――――


「はぁはぁ…………からだ、あつい…………」


「クロ? どうしたっ!?」


 急に息を乱して、体をふらつかせた。

 慌てて抱き締めると――――


「すごい熱だっ!」


 クロの身体から尋常ではない熱を感じた。汗も大量にかいている。


「まさか吹き矢が当たって!? どどどうしたらっ」


「落ち着け。おまえはこの子の親なんだろう?」


 パニックを起こす俺の隣で、エイラは慣れた手つきでクロの容体を確認した。


「毒による発熱ではないな。まずは服を脱がせて体を冷ますんだ。どれ、私が脱がせてやろう」


「この状況でそういう冗談はやめろっ。マジで怒るぞ!?」


「私はいつでもガチ恋勢なのだが……ふむ」


 エイラはクロの額に手を当てて何かを考え込んだあと、俺に向かって言った。


「教会はダメだ。おまえの家に運べ。私が薬を調合しよう」



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