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銀拳一擲シャイニングブロウ!


「GRUAAAAaaaaaaaaッ!!!!」



 ()()があげた雷鳴のような雄叫びにより、周囲を覆っていた土煙が晴れ、空気が震える。


 地下から姿を現したのは、山のような巨体を誇るトカゲ型のモンスターだった。

 表面は苔緑色の肉厚な鱗で覆われており、前足には骨太で巨大なかぎ爪。

 何より特徴的だったのは、前頭部に生えた螺旋状にねじ曲がった一角だ。

 王立図書館の文献で読んだことがある。

 あのモンスターの名前は……。


「あの特徴的な一角……間違いない。アースドラゴンよ!」


 俺と共に安全地帯まで逃げたダイアナは、巨体を見上げてモンスターの名前を言い当てた。

 その名を聞いて、隣で鉄槍を抱き締めていたヨシュアくんが目を見開く。


「あーすどりゃごんっ!? そそそそそれって伝説級のモンスターじゃないっスか!?」


「GRuRuRuRu………」


 ヨシュアくんの悲鳴が耳障りだったのか、アースドラゴンは鼻を鳴らした。

 自身のシンボルである巨大な一角を、ダイアナとヨシュアくんに向けてくる。


「ヨシュアくんは村に戻って、住民に避難を呼びかけるんだ」


 俺は二人を下がらせて、アースドラゴン相手に拳を構えた。

 ドラゴン系のモンスターは、大規模な自然災害を起こす厄災の元凶として御伽話おとぎばなしで語り継がれるほどだ。

 ”竜の巣”に住むと言われるドラゴンとはコイツのことだろう。作り話でも御伽話でもなかったわけだ。


「シズさんはどうするんスか!?」


 ヨシュアくんは子犬のような甲高い声をあげて俺に問いかける。

 俺は身構えたまま後ろを振り向かず、気丈に答えてみせた。


「ここでアイツを食い止める。村に近づかれたら壊滅的な被害が出るからね」


 巨大な一角を用いた突進攻撃チャージは、一撃で城壁を破壊するほどの威力だ。

 そんな攻撃をまともに喰らったら、ワッチ村はひとたまりもないだろう。


「無茶ですよ。シズさんが残るならオレも……!」


「もう一度言うよ。ヨシュアくん、キミが村を護れ」


「……っ!」


「ここは俺に任せて先に行けってね。運がよければまた会えるさ」


「シズさん……」


「後は任せたぞダイアナ。おまえなら飛翔の術(ワールウィンド)でひとっ飛びだ」


「わかった。くれぐれも無茶はしないでね」



「GUGAAAAAAAAAA――――ッ!!!!」



 アースドラゴンが雄叫びをあげる。

 俺は左腕のガントレットを構えて二人に叫んだ。


「走れっ!」


「必ず助けを連れて戻ってくるッスから!」


風妖精シルフよ。我らを彼の地へ運びたまえ。飛翔ワールウィンド!」


 ダイアナが飛翔の術(ワールウィンド)を唱えると、ダイアナとヨシュアくんの身体が宙に浮いた。

 風妖精シルフが生み出したつむじ風に運ばれて、二人の背中があっという間に遠ざかる。

 派手な移動方法なので探索中は使えなかったが、今は人命が優先だ。


「待たせたな。これで遠慮なく戦えるってもんだ」


 俺は剥き出しの右手のひらで、ガントレットを装備した左の拳を受け止める。

 それを挑発と取ったのか、アースドラゴンはカビ臭い鼻息を荒々しく噴き出した。



「GUGAAAAAAAAAA――――ッ!!!!」



 鼓膜を破るような爆音を叫びながら、アースドラゴンが突進攻撃(チャージ)を仕掛けてきた。

 強固なかぎ爪で周囲の岩を蹴散らし、巨大な体躯に物を言わせて木々をなぎ倒す。


 ちっぽけな人間である俺と、山のようにバカでかいアースドラゴン。

 彼我ひがの差はあきらかだ。

 爪先に触れただけでも致命傷は避けられないだろう。

 だが、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない!


「愛する嫁さんが俺の帰りを待ってるんでねっ!」


 心頭滅却。呼吸を整え、丹田に”気”を集中。

 左手を天に掲げ、召喚呪文コマンドワードを叫ぶ!



「セットアップ! 神衣展開サモン・アガートラム……ッ!」



 召喚呪文に応じて左腕のガントレット――神器アガートラムに秘められた力が解放される。


 次の瞬間、俺の体が銀色の光に包まれた。

 周囲を照らす目映い銀光。



 リィン――――



 清らかな鈴の音が鳴り響く。

 光が収まり、音が鳴り止むとそこには――



「変身――――完了ッ!」



 白銀色のフルフェイスアーマーに身を包んだ俺――()()()()()()()()()の姿があった。



 ――――ここで変身プロセスを振り返ってみよう。



 俺は左手を天に掲げ、召喚呪文コマンドワードを叫ぶ。

 すると、西の空に沈みかけていた太陽に聖なる祈りが通じた。

 俺は太陽神スクルドと特別な契約を結んでいる。

 俺の願いに応じて太陽神の力が寄せ集まり、光輝く【神衣(コンバットスーツ)】が瞬間形成。

 わずか0.5秒で全身に自動装着された。


 そう! 俺が仮面の勇者アガートに変身する時間は、わずか0.5秒に過ぎないのだッ――――!



「仮面の勇者アガート、参上!」


 俺は白銀の甲冑に身を包み、自身を奮い立たせるため勇者の名を名乗る。



「GUGAAAAAAAAAA――――ッ!!!!」



 俺の名乗りなんてお構いなしに、爆音を轟かせながら迫りくる巨大な一角獣。

 迫り来るアースドラゴンの動きが、スローモーションにように見えた。

 メンタルが極まった際に体験するという、”ゾーン”に感覚が近いだろう。


 神衣コンバットスーツを装着した瞬間から、心身が戦闘モードに移行した。

 動体視力と集中力が向上。

 全身の血管が激しく脈打ち、筋肉が膨れあがる。

 却って心は冷静だ。泰然自若。

 次に何をすればいいか、頭で考えずとも体が自然に動く。


「コォォォ…………ッ」


 俺はその場から一歩も退かず、腰を深く落とした。

 呼吸を整え、弓の弦を引き絞るように左腕を後ろへ引く。



 ――――ガシュンッ!



 すると、左腕のガントレットのストッパーが外れ、装甲が縦にスライドした。

 解放されたスリットから銀色の光が漏れ出す。

 光は昆虫の羽翅(はね)のように網目状に広がった。


 銀の左腕(アガートラム)に宿る光輝く六枚(はね)

 その一翼一翼に、高密度の神力が内包されている。


「まだだッ! もっと輝け、アガートラムッ!!」


 アースドラゴンはレジェンド級のモンスターだ。

 出し惜しみをしている余裕はない。


「うおおおぉぉぉぉぉぉ…………ッ!!」


 雄叫びと共に、光翼の一枚を消費。

 羽翅(はね)の形をした神力がガラスのような音を立てて、粉々に砕け散った。

 消費した羽翅(はね)の枚数だけ、アガートラムのパワーが増していく。



 ――――キュゥイィィィンンッ!



 モーターのような甲高い音を立て、餌を喰らってご機嫌になったアガートラムが暴れ出す。

 過負荷に耐えきれず、ちぎれそうになる全身の血管。


「黙って言うことを聞け!」


 俺は右手で暴れる銀の左腕(アガートラム)を押さえ込み、照準を合わせる。

 眼前に迫るアースドラゴン。

 そのシンボルにして急所でもある一角――巨大な魔石に狙いを定める!


「いくぞ、銀拳一擲(ぎんけんいってき)ッ! 銀光拳シャイニングブロウッ!!!!」


 極光をまとった左の拳を突き出す。

 銀色の光がレーザー光線のように真っ直ぐ伸びる。

 次の瞬間――――



「GUOOOOUUUU―――――――ッ!!!!」



 銀光の奔流が、アースドラゴンの巨体を包み込んだ。

 何千倍にも威力を上げた滅光線バーストレイの一点集中照射。

 それが銀光拳シャイニングブロウだ。

 滅光線バーストレイは無属性の精霊術だ。

 太陽光を模した超高温の熱線で、相手を焼き尽くす。

 単純だからこそ威力も高い。



「ォォォォォォォ…………」



 銀光の炎の粉が舞う中、アースドラゴンの巨体が焼け落ちていく。

 身を包むのは神の炎だ。

 その姿は一瞬で浄化され、灰燼かいじんと帰した。


「安らかに眠りな」


 アースドラゴンの最期を看取ったあと、俺は変身を解除した。

 召喚した時と同じように、神衣コンバットスーツは一瞬で消滅した。

 後に残ったのは、琥珀色の巨大な魔石。

 アースドラゴンとの戦闘で壊滅した麓の森。

 そして――――


「女の、子…………?」


 俺は目を疑った。

 アースドラゴンの遺灰の上に、光の球が浮かんでる。

 球は半透明になっており、全裸の少女が中で眠りについていた。

 背丈的には、小学生低学年くらいだろうか。

 腰まである長い黒髪を生やした女の子は、球体の中でゆっくりとまぶたを開いて――


「あ…………」


 女の子が何かを喋ろうとした瞬間、光の球が泡のように弾けた。


「おっと!」


 俺は慌てて駆け寄り、両腕を広げて女の子の体をキャッチした。

 体は鳥の羽のように軽いけど息もしてる。体温もある。


「大丈夫か……?」


「すぅ、すぅ…………」


 そっと頬に触れて、呼びかけてみる。

 アースドラゴンに飲み込まれた犠牲者かと思ったが、目立った外傷はない。

 下ろし立てのシルクのシーツみたいな綺麗な白い肌をしている。

 肌の感触を確かめていると、女の子はゆっくりと目を開いた。


「あぅ……?」


「よかった。意識はあるようだな」


「うゆぅ…………」


 寝ぼけているのだろうか。

 女の子は深紅の双眸そうぼうで、俺の顔をじっと見つめると――


「パパ…………?」


「え? 俺は……」


「パーパっ!」


「うわっ!?」


 女の子は両手を伸ばして、俺の肩に抱きついてきた。反射的に抱きしめ返す。

 それを好意的な意味に受け取ったのか、女の子はさらに甘えてきた。


「パパ、パパっ!」


「わわっ。ちょっと待ってくれっ。ひとまず落ち着け」


 女の子は俺の腕の中で笑顔を浮かべ、無邪気にはしゃぎまくっている。

 アースドラゴンを倒したと思ったら、まさか女の子を拾うことになるなんて。


「帰ったらダイアナが腰を抜かすんだろうなぁ……」


 いたいけな少女を独りぼっちにするなんて、そんな残酷な選択肢を選ぶはずもない。

 俺は女の子を腕に抱えながら、いつものように苦笑を浮かべた。


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