VSゴブリン
「今が好機! 見つかる前に倒す! 先手必勝だぁぁぁぁっ!」
「ええいクソっ! やっぱりこうなったか!」
ヨシュアくんは前線クラスの中でも、トリッキーな技を使う槍使いだ。
柄の長さを活かした中距離からの打撃と刺突、なぎ払いによる範囲攻撃、投擲による遠距離攻撃もこなす万能タイプ。
槍を前方に構えての突撃攻撃も強力だが、それは騎乗時、もしくは集団密集陣形で繰り出すから有効なだけ。細身な槍での単身突撃はただの自殺行為だ。
「俺がカバーに回る。ダイアナは風の精霊術で、ヨシュアくんに矢避けの加護を!」
「わかったわっ!」
ダイアナに呼びかけ、ヨシュアくんの後を追いかける。
ヨシュアくんを御しきれなかったのは俺の落ち度だ。
けれど、反省は後にしよう。ダイスはすでに転がった。
「うおおおぉぉぉぉっ! 退け退けっ! 疾風怒濤のナイトフェンサー・ヨシュアさまのお通りだぁぁぁっ!」
「ギギィッ!?」
ヨシュアくんの奇襲に驚き、奇声を上げて戸惑うゴブリンたち。
ヨシュアくんの狙いはゴブリンシャーマンだった。
岩場の陰に向かって、一直線に槍を構えている。
まずはリーダーを倒してパーティーを瓦解させる。
セオリー通りの戦い方だ。
「事前に打ち合わせてくれていたら、花丸あげたんだけどね!」
「キシャァ!」
ゴブリンの弓兵は慌てながら、ヨシュアくん目がけて矢を放った。
すでに指示は送っている。
矢が放たれるのと同時に、ダイアナが杖を掲げて風妖精に呼びかける。
「風よ、彼の者を護りたまえ! 風の護り!」
ダイアナの呼びかけに応じて、どこからともなく突風が吹く。
風のバリアに阻まれ、ゴブリンが放った矢は明後日の方向へ逸れていった。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ!」
風の衣を身にまとったヨシュアくんが、裂帛の気合いと共に穂先を繰り出す。
弓兵を護ろうと前に踊り出るゴブリン剣士。
「せやぁぁ!」
「ギギャァッ!」
だが、小剣を振るう暇もなく、あえなく鉄槍の餌食となった。
腹部に穂先が突き刺さる。
「まずは一匹!」
ヨシュアくんの勢いは止まらない。
剣士の体から槍を引き抜いたヨシュアくんは、そのまま力任せに横へ薙いだ。
槍の穂先が隣で身構えていた弓兵の喉を掻き切り、緑色の鮮血が岩場に飛び散った。
「これで二匹目っ!」
『疾風怒濤』の自称は、伊達ではなかったようだ。
見張りを次々に葬ったヨシュアくんは、緑色の血が滴る鉄槍を構えてゴブリンシャーマンへと迫る。
「武器を捨てて大人しく投降すれば、命までは取らないッスよ」
「ヒギィッ……!」
ヨシュアくんの猛攻に恐れをなしたのか、ゴブリンシャーマンが驚愕の表情を浮かべながら後ずさる。
戦意を喪失したのか、手に持っていた木の杖を地面に落として――
「いけない、ヨシュアくんっ! その場から離れてっ!」
後方で様子を窺っていたダイアナが大声で注意を促す。
しかし、一歩遅かった。
「ヒャッハー!!」
シャーマンの杖が地面をノックした瞬間、ヨシュアくんの足下が不自然に盛り上がった。
土鬼による地形操作の精霊術だ。
「うわっ!」
バランスを崩して、地面に尻餅をつくヨシュアくん。
「シャァァァッ!」
その瞬間を狙っていたのだろう。
身を隠していたゴブリン剣士が岩場から姿を現した。
ショートソードを手にして、ヨシュアくんの背後に迫る――!
「させるかよっ!」
――――ガギィンッ!
間一髪。俺はゴブリンとヨシュアくんの間に割って入って、左腕のガントレットで小剣を弾いた。
攻撃が弾かれた反動で体勢を崩すゴブリン剣士。
「せいっ!」
俺は間髪入れず、右の拳をゴブリン剣士のボディに叩き込む。
「グギィッ!」
鍛えあげた拳闘士の拳をモロに受けたゴブリン剣士は、黄色い唾を吐き散らしながらその場に倒れた。
「これで三匹目ってね」
「ヒギィッ……!」
敗北を悟ったのだろう。
ゴブリンシャーマンは小猿のような悲鳴をあげると、背を向けて逃げ出した。
だが、ダイアナがそれを許さない。
「鋭き風よ。我が敵を切り刻め! 風刃!」
「ギャァァァァ――――ッ!!」
ダイアナが放った風の刃で背中を切り刻まれるゴブリンシャーマン。
血だるまになったゴブリンは断末魔の叫びをあげて絶命。
その体は灰となって散った。
ほどなくして、他のゴブリンたちも灰となってこの世から消滅した。