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魔の鉱山へ

「ノックノック。聞こえてる?」


 ダイアナは落ち着いた色合いの赤い外套を羽織り、中間着としてワッチ織りの真っ白なセーターを着込んでいた。

 スカートが短めなのはダイアナの趣味だ。

 可愛さと動きやすさの両立を目指したらしい。

 そんなダイアナは、白樺の木で作った杖の先端で地面をノックしながら慎重に歩みを進めていた。


「さっきから何をしてるんスか?」


「地面を杖で叩いて土の精霊である土鬼ノームとコンタクトを取ってるのよ。足場が崩れやすくなってるから危険な場所があったら教えてねって」


「精霊にばかり頼らないで、自分の目でも足下を確認しろよ。ダイアナはただでさえ運動音痴なんだから」


 俺たちが進んでいる森は鉱山の麓にあった。

 地震の影響で落石や地割れが発生しており、起伏も激しい。

 よそ見をしたら思わぬところで転んでしまうだろう。


「そうだ。パパがおんぶしてやろうか」


「子供扱いしないでよね。これくらいの山道、なんてことな……きゃわっ!」


「おっと!」


 言ってるそばからこれだ。ダイアナは木の根っこに足を取られて転びそうになる。

 俺は咄嗟に両手を伸ばして、背後からダイアナを抱き締めた。そのまま肩の上まで持ち上げる。


「高いたかーい」


「だから子供扱いすんな!」


 ダイアナは頬を膨らませて手足を振り回して抵抗する。まるで抱っこを嫌がる子猫だ。

 仕方なく俺はダイアナを地面に降ろして頭を撫でた。


「だから言ったろ? 抱っこされるのが嫌なら注意して歩けよ」


「べ、別に抱っこされるのは嫌じゃないのよ。子供扱いされるのが嫌なだけ」


 ダイアナは耳まで真っ赤にさせて首を横に振る。


「大人な抱っこしてくれるなら、むしろ喜んで受け入れると言いますか……」


「今日からここをキャンプ地とする! 可愛い嫁さんを今すぐハグしちゃうぞ!」


「きゃーん♪」


 俺はダイアナを再び抱きしめて、頬にキスをしようとして――


「真面目にやってもらえます? イチャイチャしてる場合じゃないッスよ」


「ごめんなさい……」「ごめんなさい……」


 ヨシュアくんに怒られてしまった。

 悪いと思ったら新人ハンター相手にも頭を下げる。

 分別があるのかないのかわからない熟練夫婦ハンターだと、ギルド内でも評判(?)だ。


「ヨシュアくんが見た遺跡って、位置的には”竜の巣”の真下なのよね?」


 気を取り直して、杖で地面を叩きながら慎重に歩みを進めるダイアナ。

 先頭で道を切り拓いているヨシュアくんは、前を向きながら頷いた。


「そうッスけど、ワッチ村に生まれて15年。坑道の下に遺跡があるなんて知らなかったッス」


「地元の人間も知らない古代の遺跡か。ギルドで話に出ていた探索クエストとも関係ありそうだな」


「遺跡の入り口が開いたのは地震の影響でしょうね。元々緩くなっていた地盤が崩れて穴が開いたって、土鬼ノームも言ってるわ」


 ダイアナの発言を受けて、ヨシュアくんが何かを思い出したかのように頷く。


「親父から聞いたことがあります。坑道が閉鎖されたのも崩落の危険があったからだって」


「崩れかけの坑道か。そんな危険な場所にゴブリンが生息してるのか? いくらジメジメしたところが好きで夜目が利くからって、他に住むところあるだろ」


「ゴブリンは地震が発生する直前に姿を現したみたい。それまで坑道には誰も住んでなかったそうよ」


 土鬼ノームから直接話を聞いているのだろう。俺の質問にダイアナが答える。


「ただ、いつどうやって姿を現したのかはわからないって。身の危険を感じた土鬼ノームたちは坑道から離れちゃったみたいで」


「自然と共に暮らす精霊が土地から離れるなんてこと、あり得るのか?」


「あり得ないわね。自然の摂理に反するもの。つまり、それほどの異変が発生してるってこと」


「ダイアナの読みは当たってたわけか……」


 ゴブリンが異変に関与しているのかは不明だが、地震の発生前に姿を現したとなると無関係とは思えない。


「よし着いた。この道を進めばヨシュアくんの言っていた縦穴はすぐそこだよ」


 俺は地図を取り出して、もう一度現在地を確認した。

 ヨシュアくんが見たという遺跡の入り口、地面に開いた縦穴は山道の途中にあった。

 地震の影響で地面にポッカリと穴が開き、坑道の床をぶち抜いてさらに下の階層まで続いていたという。


「まずは偵察だ。荷物は置いていこう」


 俺たちは移動の邪魔になる食料を木陰に隠したあと、必要最低限の装備を身につけて縦穴へ向かうことにした。

 隊列を入れ替えて俺が先頭に。ダイアナを間に挟んで、ヨシュアくんが最後尾へ回る。

 今回のパーティーには罠感知や索敵を行う斥候スカウトがいないので、身軽な俺が斥候役を務めることになった。

 そのはずだったんだけど……。


「シズさん。あそこッスよ。遺跡はあの岩場の向こうっス」


「こらこら。ヨシュアくん。隊列を崩さないの」


 最後尾にいたはずのヨシュアくんが、いつの間にか俺の隣にいた。

 鼻息荒く前方の岩場を指差す。

 ヨシュアくんを後ろに下がらせた後、岩場の様子を確認。

 岩場のすぐ近くに小さな人影が見えた。


「誰かいる。二人とも身を低くしろ。できるだけ音を立てないように」


 俺は小声で二人に指示を出して、木陰に身を隠しながら前方の様子を窺う。

 人影の数は三つ。武器を携えた緑色の小鬼――ゴブリンが立っていた。


「弓兵が1匹、ショートソード持ちの剣士が2匹……? おかしいな。オレが前に見たときよりも敵の数が少ないッスよ」


 ヨシュアくんが首をひねっていると、ダイアナが岩場の奥を指差した。


「奥により強い魔物の気配を感じるわ。岩場の陰にゴブリンシャーマンが隠れてるみたい」


「そいつが親玉ってことか」


 ゴブリンは知性の高い悪鬼(デビル)族のモンスターだ。

 人間の小児並みの知性と知識を持ち、罠を仕掛けたり、鉄製の武器を巧みに扱う。

 中でもゴブリンシャーマンは、土と金の精霊術を使う厄介なモンスターだ。

 一匹一匹の戦闘力は大したことはないが、巧みな連携で相手を翻弄してくるので油断ならない。


「縦穴の位置はわかるかな?」


「岩の向こう側……ちょうどゴブリンシャーマンが立ってる辺りッスね」


「入り口を守ってるのかしら?」


「だとしたら妙じゃないか? ヨシュアくんは遺跡の中でゴブリンと遭遇したんだろ? シャーマンがボスなら一番安全な遺跡の中に潜んでいるはずだ。入り口の見張りなんて部下にやらせればいい」


 中に入れない理由がある。

 もしくは、より強力な存在が遺跡の奥に潜んでいるかのどちらかだろう。


「……嫌な予感がする。村に戻ろう」


「またいつもの?」


「俺の悪い予感は当たるからな」


 もうすぐ日が落ちる。入り口の場所は確認した。

 今後のことはギルドとも相談すべきだろう。

 俺はそう提案しようとして――



「うおおおぉぉぉっ! 一番槍は貰ったぁぁぁっ!」



 鉄の槍を手にしたヨシュアくんが、ゴブリン目がけて突撃を仕掛けた!


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