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魔王を倒した後の物語

※ここから6年後、魔王討伐後のお話になります。

※以降の更新は1日1回になると思います。

 ――――これまでのあらすじ。


 8年前。大陸の北西に位置する島国【プラジネット霊王朝(れいおうちょう)】に、突如としてモンスターの大群が出現。

 モンスターを操っていた【狂乱の賢者ダンダレフ】は自らを【魔王】と称し、たったひと月で霊王朝(れいおうちょう)を滅ぼした。



 ――――魔王出現から2年後。



 大陸を襲った未曾有の危機に対して、霊王朝(れいおうちょう)第5王位継承者【ディアナ・K・プラジネット】は勇者を召喚。

 亡国の王女と勇者は、長い旅路の果てに見事魔王を討ち取った。

 しかし、脅威は完全に去ったわけではない。

 魔王は散り際に、こう言い残したのだ――――



「ふははは! 我が倒されてもいずれ第二、第三の魔王が現れるであろう。魔神クロウ・クルワッハさま万歳! どがーんっ! はい。ここで魔王が大爆発。お城が崩れ去った~。どどどど~、ばごーん!」


 早朝。教会に併設された木造平屋建ての孤児院の中庭で、俺は子供たちに紙芝居を見せていた。


「今回の話はどうだった? よければ感想と『いいね!』を頼む!」


 上演を終えた俺は、喰い気味に子供たちへ声をかけた。

 1週間かけて作った新作だ。評価が気になる。

 孤児院の管理人であるシスターに頼まれて、教育番組的な内容も盛り込んでみた。

 俺としてはかなりの自信作なんだが……。


「固有名詞が多くて、じょうほーが頭に入ってこない」


 中庭に集まった子供たちは、ため息をつきながら首を横に振った。


「展開が早すぎて感情移入できないよ」


「擬音が多すぎ。子供はだませても、大人なボクらはだませないぞ。キリッ」


「はい……善処します……」


 辛辣なコメントを次々に浴びせられて、俺はうなだれる。子供は容赦がない。

 俺が心の中で涙を流していると、おかっぱ頭の少年が目を輝かせながら声をかけてきた。


「ボクはいいと思ったよ。おっさん先生の次回作に期待してるね!」


「ありがとなボクちゃん。飴いるか?」


「いらないよ。見ず知らずのおっさんからモノを貰うなってシスターに言われるから」


「誰が見ず知らずのおっさんだ! 毎朝、孤児院に顔を出して紙芝居見せてやってるだろ。それと俺はまだ24歳だ! 十分に若い!」


「成人の儀式から9年も経ってるじゃん。じゅーぶん、おっさんだよ!」


「うるせー。ウチの田舎では二十歳で成人を迎えてたんだよ。20代前半なんてアソコの毛が生え揃ったくらいの年齢だろ。おっさんと呼ばれるにはまだ早い!」


「わーーー! よくわかんない理由でシズさんが怒った! 逃げろ~~~! オーガごっこだ~~~!」


「オーガごっこ……あ、鬼ごっこか」


 紙芝居が終わって飽きたのだろう。

 子供たちは俺をオーガに見立て追いかけっこを始めた。


 ティアラ・ノーグの固有名詞が出てくると、言語の自動変換がたまに誤作動を起こすことがある。

 この身体に入ってから6年以上経つから、さすがに慣れたけど。

 体力は有り余っている。運動不足解消がてら、子供たちに付き合ってやるか。


「オレサマ、オーガ。オマエ、マルカジリ!」


「タスケテ~! おっさんに食べられちゃう~! 性的な意味で」


「誰か騎士さまを呼んでください。この人、痴漢です!」


「やめて! 騎士を呼ばれたら牢屋行きだからマジでカンベン!」


 わーきゃー騒ぎながら逃げ回る子供たちを、俺も別の意味で悲鳴をあげつつ追いかけ回す。

 子供たちは無尽蔵の体力にモノを言わせて、中庭を元気に走り回っていた。


「やれやれ、朝から元気だこと。だけど、子供はこれくらい活発的じゃないとな」


 日本だろうが異世界だろうが、子供たちの笑顔は何も変わらない。

 何の憂いもなく子供たちが遊び回っている。

 これこそが平和の象徴だ。

 

 勇者としてダイアナに召喚されたあの日から、6年が経過していた。

 子供達に語り聞かせたように、魔王は俺の手によって討伐された。

 もっとも、世間的には”勇者軍”が魔王を倒したことになっている。あくまで俺は影のヒーローだ。

 俺は社会的な地位が欲しいわけでもなく、賞賛を浴びたいわけでもなかった。

 俺が護りたかったのは子供たち、そしてダイアナの笑顔だった。

 俺は遠くで手を振る子供たちに、生温かい視線を送り――


「もう疲れたの? シズさん、やっぱりおっさんじゃん」


「ププっ。ザーコザーコ。肉体年齢四十歳。人生の曲がり角」


「このクソガキどもめ! 人が手加減してやってるのに、いい気になりやがって。わからせてやろうか」


「あらあら。みんなして騒いでどうしたの?」


 水鏡を見つめて自分の容姿について悩んでいると、教会の扉が開いた。

 中から紺色の修道服を着た、金髪の若い女性が姿を現す。

 聖神せいしん教会に勤めているシスター・クレアだ。


 シスター・クレアは跳ね癖のある長髪と大きな胸を揺らしながら、中庭に近づいてきた。

 すると子供たちが一斉にシスターの元へ駆け寄って、井戸の前で顎を撫でている俺の顔を指差した。


「聞いてシスター! シズさん、毛が生えたばかりなんだって。見た目はおっさんだけど、アソコはまだお子ちゃまなんだって!」


「おいこら! 大声で恥ずかしい噂を広げるのヤメロ!」


「わー! オーガがこっちに来たぞ。逃げろー!」


 叫びながら駆け寄ると、おかっぱ頭の少年が逃げ出して――


「うわっ!」


 地面の盛り上がりに足を取られて、顔の方から転んでしまった。


「いててて……」


 幸い、顔面ダイブはせずに済んだようだ。

 けれど、咄嗟に腕で身体を庇ったせいで肘から血が出ている。


「よく泣かなかったわね。偉い偉い」


 シスターは聖母のような笑みを浮かべると、肘を擦りむいた少年の前でしゃがみ込んだ。


「今から治療(ヒール)の加護を使うから、じっとしててね」


 シスターは両手を組むと、目を瞑って天に祈りを捧げる。


聖神せいしんベルドよ。彼の者の傷を癒やしたまえ……治癒ヒール


 シスターの祈りは聖神ベルドに届いた。

 聖神の加護により、少年の擦り傷が見る見るうちに塞がっていく。

 僧侶クレリックが使う神聖術、治癒ヒールの効果だ。


「ありがとう! シスター!」


 肘の怪我が完治した少年は元気よく立ち上がり、手を振って走り出した。


「走る時はきちんと周りを見なさい。また転びますよ」


「は~い」


 若者の興味の移り変わりは激しい。子供たちはオーガごっこをやめて、別の遊びに興じていた。

 誰もマルカジリできなかった俺は、苦笑を浮かべながらシスターに声をかける。


「朝のお勤めご苦労さまです。シスター・クレア」


「おはようございます。シズさん」


 シスターは垂れ目気味の柔和な笑みを浮かべて、修道服の下に隠れている立派な胸を揺らしながらお辞儀をした。

 シスターは背が高くモデルのような体型をしている。

 清純な印象を与える修道服の下にグラマラスな肢体が隠れているのかと思うと、ついエッチなことを妄想してしまう。

 村の男どもが足繁く教会に通っているのも、シスターと話をするのが目的だろう。

 シスター本人は敬虔な聖神教会信者で、()()()()()は一切聞かないけれど。


「いつもすみません。ハンターさんに子供たちの世話を任せるなんて」


 俺がよからぬことを考えていると、シスターは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 内心を悟られまいと俺は営業スマイルを返す。


「気にしないでください。俺らみたいな魔物を倒すしか能のない()()()()に仕事を回してくれるんですから、むしろ感謝してますよ」


「迷える子羊に救いの手を差し伸べるのも聖神ベルドの教えですので」


 俺の言葉を受けて、シスターは両手を組んで天に祈りを捧げた。


 シスターは毎朝この時間に、ご神体である女神像の前で祈りを捧げている。

 聖神教にとって祈りの儀式はとても大事なものだ。

 儀式の最中は他事に時間を割く余裕がない。

 そこで暇を持てあましてるハンターの俺に、子守のクエストが回ってきたわけだ。

 教会も裕福ではないし依頼料は決して安くはないのだが、教義に従って仕事(クエスト)を依頼してくれている。


「最近、村の近くで怪しい人影を見たという目撃談もありますから心配で心配で。シズさんのような頼れるハンターさんが見守ってくださって、本当に助かっているんですよ」


「あはは。美人のシスターに頼りにされるなんてハンター冥利につきますね」


「あらあら。シズさんったら……」


 頭を掻きながら受け答えしていると、シスターはほんのりと頬を赤く染めた。

 場を和ませるための軽いトークだったんだけど、まさかの脈ありか!?

 俺は慌てて二枚目な顔を作ると、白い歯を見せてシスターに微笑みかけた。


「俺なんかでよければ、いつでも声を掛けてください。これでも体力には自信があるんです。荷運びや扉の修理、薪割まきわりでも何でもしますよ」


 毎朝教会に出向き、子供たちの面倒を見るだけの簡単なお仕事をするだけ金が貰えるんだ。文句が出るはずもない。

 俺自身、児童養護施設の出身だから孤児院の子供たちの悩みにも付き添える。

 なによりシスターは胸が大きい。傍にいるだけで目の保養になる。

 趣味と実益とおっぱいを兼ねた仕事だ。干されないように営業は仕掛けるべきだろう。


「頼もしい。けれど、子供たちには敵わなかったような?」


「あれは演技です。俺が本気を出したら魔王だって一撃でノックアウトですよ」


「ふふっ。それならギルドを通して依頼を出しておきますね」


 俺の冗談を受けて、シスターは頬に手を当てて穏やかに微笑んだ。

 ハンターが請け負うクエストは、ハンターズギルドを通して依頼が出される。

 小さな仕事なら個人間で契約を結んでもいいんだが、そこは法と秩序を重んじる聖神教会のシスターだ。きちんと筋を通すつもりのようだ。


「シスター。お腹空いたー」


「はいはい。いま行きますよ」


 俺とシスターが話をしていると、お腹を空かせた子供たちが声を掛けてきた。頃合いだろう。


「俺はこの辺で」


「明日もまたお願いします。奥様にもよろしくお伝えください」


「あいよ~」


 俺はシスターに手を振って別れる。


「俺もメシにするか」


 子守のクエストは週払いだ。

 今週分の報酬を受け取るため、俺は村の中央広場にある酒場兼ハンターズギルドへ向かうことにした。

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