聖拳一撃!
――――ここで変身プロセスを振り返ってみよう。
俺は左手を天に掲げ、太陽神スクルドの名を叫ぶ。
すると、東の空から顔を見せた朝陽に祈りが通じた。
俺の叫びに応じて左手の文様に太陽神の力が寄せ集まり、光輝く【神衣】が瞬間形成。
わずか0.5秒で全身に自動装着された。
そう! 俺が仮面の騎士に変身する時間は、わずか0.5秒に過ぎないのだッ――――!
「待たせたな!」
俺は白銀色の騎士甲冑に身を包み、フェンリルと対峙する。
「■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!!」
もはや自我は残っていないのだろう。
フェンリルは問答は無用とばかりに、咆哮光線を放ってきた。
すべてを焼き尽くす必滅の熱光線だ。
直撃すれば、即死は免れない。
それなら――――
「正面から迎え撃つ!」
――――ガシュン!
俺が左腕を掲げると、ガントレットのストッパーが外れて装甲が縦にスライドした。
開いたスリットから、銀色の光羽が漏れ出す。
羽翅の枚数は3枚。
「よくわからないが全弾消費だっ!」
俺の意志に従い、光の羽翅が硝子のような音を立てて粉々に砕け散った。
――――キュゥイィィィンンッ!
モーターのような甲高い音を立て、ガントレットが暴れ出す。
全身に尋常ではないパワーが宿ったのを肌で感じる。
これなら――――ッ!
「喰らえ! 銀拳一擲ッ! 銀光拳ッ!!!!」
頭に浮かんだ呪文を叫び、アガートラムの内側に渦巻く神力を開放。
迫る咆哮光線に向けて、俺は聖拳突きを放った。
次の瞬間――――
――――ズバシュゥゥゥンッ!
聖なる銀光と魔の灼光が激突。
インパクトの瞬間、あまりの衝撃に大地が震えた。
力は拮抗。互いに譲らない。
爆音と雷鳴を轟かせながら、相手の力を削り合う。
だが――――
「俺は一人じゃない…………ッ!」
「シズ――――ッ!」
ダイアナの叫びが、俺の背中を押してくれた。
魂を燃やし、ありったけの力をアガートラムに注ぐ。
「貫けぇぇぇぇっ!!!!」
「貫けぇぇぇぇっ!!!!」
俺とダイアナ。二人の雄叫び。魂の叫び。
その叫びに呼応するかのように、銀光が輝きを増して――――
―――ズシュゥゥゥゥゥンッ!!!!
俺の放った銀光が呪いの赤光を引き裂いた。
銀光の奔流が、フェンリルを直撃。
その巨体を貫いた。
「ォォォォォォ…………」
フェンリルは断末魔の叫びを上げながら、その身を燃やし尽くし――
やがて、灰も残さずこの世から消え去った……。
「はぁはぁ……っ。や、やった……のか」
力を使い果たした俺は、その場に尻餅をつく。
ガラスが砕けるような音と共に甲冑が消失。
変身が解除されたようだ。
「いてて…………」
全身の筋肉が軋みをあげている。
熱に耐えきれず、肌も大火傷を負っていた。
どうやら力を制御しきれなかったようだ。
要修行、といったところだろう。
「シズっ!」
地面に尻餅をついて呼吸を整えていると、ダイアナが抱きついてきた。
ボロボロになった俺の体を確認して、目尻に涙を溜めている。
「ごめんね、ごめんねっ。痛かったよね。ワタシのせいで無茶させて。お父様たちみたいにいなくなったら、ワタシ、ワタシ……」
「ダイアナ…………」
俺は歯を食いしばって痛みをこらえ、目に涙を溜めて謝るダイアナの頭を撫でた。
今度は優しく。ダイアナを安心させるように。
「俺はどこにも行かないよ。約束したろ。ダイアナを必ず護るってな」
「シズ…………」
「一緒に戦ってくれてあんがとな。ダイアナが背中を押してくれたおかげでアイツに勝てた」
「ええ……ええ、もちろんよ。だってワタシは……」
「天才術士のダイアナ様、だもんな?」
「うん!」
ダイアナは涙を止めて、満面の笑みを浮かべた。
ああ。そうだ。この笑顔が見たくて、俺は――
「やっぱりダイアナは笑ってる方が可愛いな」
「かわっ!? かわわわわわっ!」
「ん……? 急に赤くなってどうした? 術の使いすぎか?」
俺が笑いかけると、ダイアナは耳まで赤くなってしまった。
「熱があるんじゃないか?」
俺はダイアナに顔を近づけ、額を重ねて体温を調べる。
すると、ダイアナはますます顔を紅潮させて――
「だだだだダメよっ! そういうエッティなのは魔王を倒したあとで!」
「エッティってなんだ……」
「とにかく成人するまではダメなの!」
「おわっ!?」
ダイアナは顔を赤くしたまま、俺の体を突き飛ばしてきた。
力を使いすぎたのは俺の方だった。
よろけた体を支えきれず、顔面から地面に突っ伏してしまう。
「きゃあ!? ごめんなさい、シズ。衛生兵、衛生兵~~~!」
「あはは。締まらないな……」
何はともあれ、こうして俺とダイアナの初陣は白星で幕を閉じたのだった。