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98「奴隷剣闘士はもういない」


 俺たちは地下の謎空間から、見張りの連中が使っていたと思しき通路と階段を通って地上階に場所に出た。


「ここってどの辺になるんだ?」

「市壁の内側も内側じゃ。大聖宮の一階の隅っこじゃの」

「おお、素晴らしい」

「じゃろ?」

「確か聖剣の間はこの上だよなー」


 たしか最上階だったような気がしている。


 ――メンヘラ女がいるとすればそこだろうか?


 とりあえず聖剣の間に向かいながら途中で見かけた兵士か巫女さんになるべく穏便にあの女の居場所を聞き出すことにしよう。


 当面の予定は決まったので、即行動。

 案の定オースが派手にやらかしているようで、こっちの兵は相当手薄。というかほとんどいない。こりゃ楽勝で最上階までいけるな、と思ったのが悪かった。

 

 一階正面の大階段を上っていくと踊り場のようなスペースにひとり、騎士鎧の男が待ち構えていた。


「そこで止まりなさい」


 既に抜剣している。完全にやる気ですね。やだやだ。野蛮な輩は嫌いだ。


「通してくれないか? その先に、つーか神託の巫女サマに用があるんだけど」

「通せません、と言ったら?」

「押し通るに決まってんだろ!」


 俺が一歩踏み出すと同時、否、それよりも先に騎士鎧の男は動いていた。

 瞬間移動めいた踏み込み。


 ――これはクロノスリッド流か!


 完全に間合いに入られた。

 まずい。受けきれない。

 死ぬ!

 即座の判断。俺は横っ飛び。躱せ――


 ――躱せた!


 ごろごろと床を転がって距離を取って両手に小剣を構える。


「いきなりなにすんだ。殺す気か!!」

「上手く避けましたね」


 俺の苦情を無視すんなよ。

 つーか、その鎧着た状態で今みたいな動きって、どんな訓練の成果だよ……。


「どうにか退いちゃもらえませんかね」

「無理ですね。ここを護るのが主より与えられた使命ですので」

「デスヨネー」


 知ってた。超知ってた。

 頭の固い奴は話が通じなくて困る。

 やる気満々の騎士鎧の男を見やり、さてどうしたものかと考える俺の前に、フェイが巨体をぬっとねじ込んできた。


「タクシ! ここは俺に任せろ!」


 んー。

 そうだな。

 俺の目的はこの騎士じゃねえしな。任せられるものは任せよう。


「わかった。フェイ、頼む」

「おう、命に代えてもこの場に(とど)めてやらあ」

「おいコラ」


 ほんとにこの脳筋は。


「あぁ?」

「俺らは上下関係じゃねえけど、一個だけ命令だ。……出発する時にも言ったけど、絶対死ぬな。俺が勝利の凱旋した時にくたばってやがったたら許さんからな。地獄まで追いかけてもう一回俺が殺してやる」

「……合点承知!」

「死ぬなだの殺すだのと、ややこしいことよの」


 ムニスは黙ってて!


「お話は済みましたか?」


 騎士鎧の男は辛抱強く待ってくれていた。

 律儀なことだ。俺なら途中で斬りかかってるわー。


「待ってもらってすまねえな」


 とフェイが礼を言った。


「いえいえ。良い主に恵まれたようですね、獣人の奴隷剣闘士。いつかの闘技会以来でしょうか?」

「ああ、アンタあの時の。そうかいそうかい。久しぶりだな」


 フェイは犬歯を剥き出しにして笑った。

 あー、いたね。予選会で鬼ほど強かったクロノスリッド流の騎士鎧の人。こいつがそうか。


「一つ訂正させてもらおうかい。俺は奴隷剣闘士は廃業したもんでな」

「ほう?」

「今は()()()剣闘士だ! 我こそは勇者タクシ第一の仲間、剣闘士フェイ! いざ尋常に勝負!」

「聖騎士アルベルト、受けて立ちましょう!」




 以下、次回! 最前列S席って感じだけど呑気に観戦している暇は無い。


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