95「ナントカ無双みたいな絵面」
「おどきになりやがれですわー!」
コーネリアの炎魔法による一撃によって戦端は開かれた。
超巨大な炎の塊が敵の横列の一部に降り注ぐ。
直撃。
爆音。
吹っ飛ぶ兵士。
モブに厳しい世の中だ。
つーか、変化の魔法で威力二割減とか言ってなかったっけ?
八割の力で地面にクレーター作るのやめてくれ。
「行きますよ」
「はい!」
「わーい!」
レオンハルトさんを先頭にレンドルフとオースが駆けだす。うちの子緊張感なくてすみません。
予定通りに魔法が着弾した辺りに突っ込んでいく。
俺は遅れないように走った。
「主殿、足が遅いのぅ!」
「あいつらが速いの!」
これでも俺も随分鍛えた方なのだが。
既にレオンハルトさんは敵前衛に斬りかかっていた。
斬るというよりは刺突。
レオンハルトさんの得物は細剣だ。
超高速で的確に急所を貫き、反撃も防御も許さない。
レンドルフは直剣と魔法の組み合わせ。
近づいてきた敵には剣で、離れた相手には魔法で応戦している。これはこれで厄介極まりない。
本当に味方でいてくれてよかったとしみじみ思う。
オースはといえばいつも通り。雑に近づいて雑に攻撃を躱して、的確に急所を痛撃。相手は崩れ落ちる。以上。それを呼吸をするように延々と繰り返す。
その三人でも手に負えないのに一定周期でコーネリアの魔法がどんどこ落ちてくるのだから敵軍としてはたまったものではない。
敵の横列に風穴を開けるのに、そう時間は必要なかった。
「おとといきやがれですわー!」
と、コーネリアが追手にまたも炎の一撃を食らわせる。
吹っ飛ぶ兵士。
これまた酷い。
「ここは私たちに任せて先に行きやがれですわ!」
ものすごいドヤ顔をしているコーネリアの手の中には既に次の大火球が出来上がっている。天才とは聞いてたけど、マジモンだな。洒落になってねえぞ。
「ありがとな!」
「礼には及びませんわ!」
「タクシくん、早くいきなさい」
「ありがとうございますレオンハルトさん!」
「いいえ。そうそう、道中に連中の兵站線が伸びていると思うので、それっぽい馬車を見かけたら火をかけてください」
「あ、ここからはレンドルフの案を採用するんですね」
「糧秣がなければ戦争になりませんからね。ある程度兵站を破壊したら、後は敵の本拠地まで浸透してください。極力無駄な戦闘はしないように。敵の戦力はこちらに引き付けますから。いいですね」
「は、はい!」
俺は背筋ピーンで最敬礼した。
レオンハルトさんは超笑顔。怖い。笑顔が怖い。
別れ際、俺はレンドルフに礼を告げる。
「いやー、めっちゃ助かったわ。魔王サマに御礼言っといてくれ」
「今回の件、コーネリアが陛下に何か進言したらしい。男爵家の末娘が魔王陛下に進言とは困ったものだ」
「その割に嬉しそうじゃん」
「妹の成長もだが、友のために力を尽くせることは何よりも喜ばしい」
「そいつは有難い」
「死ぬなよ、友よ」
「そっちもな」
その後、レオンハルトさんの助言通りに無駄な戦闘は一切行わず、敵地の真っ只中をたった四人で浸透突破している最中であった。
日中は山中に身を潜め、夜間に移動。それの繰り返し。
数日かけて大聖宮とその市壁が見えるところまでやってきた。
「ここからは陽動しつつ、敵の本丸に侵入じゃの」
星明かりの下、ムニスが言った。
「陽動って……」
「正面から相手を煽って削る係じゃの」
「誰にやらすんだよそんなデンジャーな役割を」
俺ならやりたくない。
誰でもそうだろう。
「愚妹よ」
「はい、お姉様!」
「やれるかの?」
「いいんですか!? やったー!」
前言撤回。一人いました。オースです。
なんで死地を前にして嬉しそうなのこの子。
歴戦の剣闘士であるフェイですら若干引いてるぞ。
「おぬしは市壁前に敵を誘引せよ。その後、門をこじ開けて我らに合流してくるんじゃぞ。早すぎず、しかし遅すぎてもいかんからの」
「はい、お姉様!」
「くれぐれも遊びに夢中になり過ぎんようにの」
陽動を遊びっていうな遊びって。
「で、いつやる?」
「夜襲もいいがの。より効果的な時間帯を知っておるかの、主殿」
「明け方?」
「そうじゃの。払暁――見張りの交代時間の直前を狙うとしようかの」
「そんな時間とかまで分かる……んだよな、全知だもんな」
「くっふっふ、主殿もようやくわかってきたようじゃの」
全知の神剣はご満悦であった。
「つーことは、俺たちの侵入経路も」
「無論我は知っておる。脱出用の隠し通路など我からすれば便利な通用口に過ぎんからの」
さ・す・ぜ・ん!
以下、次回! 全知、マジ全知。




