94「戦闘前のOJT」
「――さて、自己紹介の時間はこれまでです」
レオンハルトさんが全員の気分を引き締める。
「相手は数万の大軍で、分厚い横列陣形を敷いています。レンくん、この際に有効な戦術は何かな?」
レオンハルトさんの問いに、レンドルフは「はい兄上」と頷きを返した。
「相手は大軍ですので正面切っての戦闘は不利です。ですが、相手は大軍ゆえの問題も抱えています」
「問題とは何かな?」
「兵站の問題です。あれだけの数の兵を維持するのにかかる糧食、それらを運搬する馬匹、さらにその馬匹に与える餌。その餌を運ぶ必要さえあります」
「そうだね。いいよ、続けて」
と、微笑みながら先を促す。続けさすんかい。性格悪いなレオンハルトさん。
「その上、策源地である大聖宮からの距離もそれなりにありますから、兵站の維持には周辺の関係諸国からの徴発も含まれるでしょう」
「つまり?」
「つまり、長期戦です。日数をかければ相手の軍は自滅、瓦解します」
「うん。零点」
ばっさり斬ったな。俺の採点も同じだが。
「……はい?」
で、レンドルフは分かっていない。
「レンくん、駄目だよ。正論だけど、今の状況には合致していないよ」
そうなんだよなあ。
レオンハルトさんが俺の意見を代弁してくれる。
「タクシくんは急いでいるんだから長期戦は却下。時間は僕らの味方じゃないよ。――というわけでレンくん、別に最善手があるとおもんだけどどうかな?」
「は、はい……!」
「時間無いよレンくん。急いで考えてみよう」
レオンハルトさんめっちゃ良い笑顔だな!
こんな時でもOJTとは。レオンハルトさん、恐ろしい魔族!
「兄上、次善の策としては相手の戦線を迂回す――」
「却下だね」
「……はい」
「レンくんは真面目だね」
レオンハルトさんはレンドルフをそう評した。
「真面目、ですか」
「レンくんは彼我の戦力を額面通りに受け取り過ぎだね。六人対数万人。何も全員を相手にする必要はないんだから」
「それはそうですが……」
「そもそも身内の戦闘力を過小評価してるね。人間には悪いけど、一般兵レベルでは僕らにとっては紙を引き裂くのとそう変わらない。何万枚も束ねられるとたしかに破りにくくはなるけどね」
「しかし敵軍は、一箇所に何万枚もあるわけではないということですか、兄上」
「そういうことだね」
それならば、とレンドルフは言った。
「コーネリアの魔法にて横列の一部に穴を開け、鏃型の隊列で食い破り突破を図るのが適切かと考えます」
「宜しい。では、横列の穴を相手が即座に埋めてきた場合はどうしようか?」
「その場合、戦線の補充にあたった左右どちらかの厚みが損なわれているはずですので、速度を緩めずにそちらに転進。突破します」
「良いね。よくできました。その案を採用しようか。タクシくん、構いませんか?」
俺はコクコク頷いた。多少のリスクを取ってもここで時間をかけたくはなかった。
「では隊列の先頭は僕が受け持ちます。右翼はレンくんに任せます。左翼はオースさん、お願いできますか?」
「はい!」
「やったー!」
「隊列中央にコーネリア。その後ろにタクシくんとムニス嬢。殿はフェイさんに締めていただくということでいかがですか。突破が成ったらタクシくんたちはそのまま先行してください。僕たちで追撃を抑えますからね」
戦力温存にはそれが一番だけど、
「いいんすか? そこまで甘えても」
「勿論です。魔王陛下よりの下命でありますし、何より当家は返しきれないほどの恩を受けていますので」
「……わかりました。ただ、死なないでくださいよ」
「タクシくんも僕たちの力を過小評価しているようですね」
俺が心配顔で言うと、レオンハルトさんはふふっと笑った。まあ見ていろ、と言わんばかりに。
以下、次回! 作戦は決まった。というか決めてもらった!




