93「予期せぬ援軍」
俺とムニス、オースにフェイを加えた四人は大聖宮に向けて順調に旅をしていた。
途中で幾つかの小国を通過したが、特に危害を加えられることもなく、平穏無事だった。
遠くの大聖宮より近くの“獣人の君主”ということだろう。
名より実を取る。
地方領主としては好ましいんじゃないですかね。
だが、そんな順調な行程がいつまでも続くわけはないのである。
大聖宮が近くなれば当然、その影響力も増してくる。
あと二日もあれば大聖宮、といったあたりの平原に大軍がお待ちかねであった。
その数はムニスの目測で、
「ざっと三万といったところかの」
「うげえ」
「やりましたね! これは殴り放題ですよ! ひゃっほー!」
「ハッ、オース嬢は前向きだな!」
「ありがとうございます!」
「いや褒められてねえからな?」
俺たちは今、街道脇の雑木林に伏せている。
「めいっぱい広がってんな。通せんぼってレベルじゃねーぞ」
「ふむ。厚みも結構ありそうじゃな。無傷での突破は無理かの」
「デスヨネー。迂回するとかは?」
「山越えじゃの。相当な遠回りになる上、探知魔法くらいは用意しとるじゃろうから山狩りで詰みじゃの」
「ムニス様、山の方にも伏兵の気配がしとります」
と、フェイが言った。
「うへえ」
「私突っ込んきていいですか? いいですよね!?」
と、これはオース。いいわけあるか。首根っこを掴み暴走を阻止。
その時だった。
「お困りでやがりますわね!」
聞き覚えのある、ちょっと残念な語尾。
声の主はコーネリア・ルッヘンバッハだった。
「颯爽登場! ですわ!」
変なポーズをキメて叫ぶな。敵に見つかるだろうが。
というかそれ以前の問題として、
「コーネリア、オマエ今どこから湧いて出た?」
「我々もいるぞ、タクシ」
コーネリアの後ろからレンドルフとレオンハルトさんも現れた。
……一体どうやってここまで追いついてきたんだ?
という俺の内心の疑問についてはムニスがあっさり解いた。
「転送門じゃな」
「御明察です」
マジで便利だな転送門。直で大聖宮に行ける転送門はないんだろうか。
「つーか、その姿は?」
なんか見た目が人間っぽい。髪の色も銀髪というよりは白髪に近くなているような。
「母上に変化の魔法をかけてもらっているのだ。魔族と悟られては体裁が悪いのでな。私としてはこの身を晒すのは一向に構わんのだが、魔王様の御意向でな」
「ま、俺に露骨に肩入れするのはリスクが高いもんな。魔王サマの判断もわかるわ」
「でも、変化のせいで魔法の威力は二割減なんですの!」
あらま。結構影響出ちゃうのな。
「タクシ、こちらの方々はどちらさんで?」
そういえばフェイとオースには紹介してなかった。
「俺がすげえ世話になった魔族の友人の兄妹で、レオンハルトさん、レンドルフ、コーネリア。あと一人アベルって長兄がいるんだけど今日は」
「来ておりません。謹慎中ですから」
と、レオンハルトさんが言った。そうか謹慎か。
「謹慎程度で済んだなら何よりだな」
「御挨拶が遅れました。俺は獣人のフェイと申します。主君タクシの護衛として参じております!」
「おい誰が主君だ! えーと、フェイは獣人の仲間で、闘技場最強の剣闘士だ」
「なるほど。人間が獣人の王になったという噂は事実であったか。タクシならば納得だな」
うむうむと頷くレンドルフ。
「いや、なってねえし! 納得もすんなし!」
「主君への援軍、感謝いたします」
「フェイもそれやめろや!」
「もういい加減観念したらどうじゃの? 王とは名乗るべきものに非ず。人が器に足る人物を王と呼ぶものじゃからの」
「ムニスまでそんなこと言うなよー」
「私はオースでーす! ムニスお姉様の妹――」
「――のようなものじゃが、気にせずともよいからの」
「お姉様ひどいですー!」
以下、次回! 有難いことに戦力はほぼ二倍になったけど、敵は三万か。どうしよう。




