91「まあ、勇者ではないわな、とは思いますけどぉ」
そんなわけでファーミルトン公国との交渉は至って平和的に解決した。
死傷者が出ていないのだから平和に決まっている。
で、俺が買い取った獣人たち――公国内に百人近くも居た――は、中央自治区の獣人通り(勝手に命名した)に連れていくことにした。
「七掛けとはいえ、結構な額になったな」
「主殿は金遣いが荒いのう」
「確かにタダで引き取れそうだったけどさ。あとでそれをネタにどうこう言われたくないじゃん」
「その考えは賢明じゃと褒めておこうかの」
などとやっていると、
「あの……」
ルイス男爵に付き従っていた獣人の女性がおずおずと声をかけてくる。
「……これからは、貴方様が私たちのご主人様になられるのでしょうか?」
「あー、えーとシーファンさん、でしたっけ?」
「は、はい」
俺はこれからのことを超ざっくり説明する。
「これから獣人の皆さんにはこのファーミルトン公国を離れてもらいます。西に半日ほど行った中央自治区に獣人が多く暮らす居住地がありますから、よかったらそこで暮らしてください。仕事はこちらで手配しますけど、何かやりたい仕事があれば申し出てくださいね。可能な限り協力させていただきますんで」
「……はい?」
いや、そんなものっすごい不思議そうな顔されましても。
「ですから、皆さんはもう奴隷じゃないので、自分たちで働いて稼いで暮らしてください、ってことです。当面の間の生活支援はしますんで」
「あの……、仰ることは分かるのですが、何故そこまでしていただけるのですか?」
「えっとぉ」
あー、この問答めんどくさいんだよなあ。何回目だよ。ほんとにもー。
「……だから」
「え?」
「勇者だからです! 俺が、聖剣の勇者だから皆さんを救いました! 以上!」
俺の言葉に、どっ、と獣人たちが湧いた。
「くふふ、よう言うたの、主殿。偉い偉い」
「勘違いしないでよね! 説明するのがめんどくさくなっただけなんだからね!」
「御主人様えらーい!」
「オースは頭撫でんな!」
中央自治区に戻るまでが俺の仕事だった。
あとは皆に丸投げだ。
百人分とはいかなかったが、寝床はムニスがフェイに言いつけていた家を充てた。というか、ムニスははじめからこうなることを予見していたのかもしれない。さすぜん。
皆の仕事についてはフェイとベネディクトに丸投げした。
適材適所。
便利な言葉だ。
――このファーミルトン公国の一件以降、どこの領主に会いにいっても門前払いされなくなった。近隣の小国という小国に、俺の噂が広まったからだ。
曰く、中央自治区の支配者。
曰く、人を人と思わぬ魔人。
曰く、獣人族の救世主。
誰が呼んだが“獣人の君主”という二つ名までついてしまった。勇者っぽさ微塵もねえな。
おかしいなあ。なんでだろうなあ。
人間も獣人も分け隔てなく救うつもりなんですけど?
以下、次回! そろそろ頃合いですかね、と。




