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90「人間じゃないならそれでいい」


「誰か! 誰か出合え! 出合えい!」


 往生際の悪いルイス男爵が喚き散らす。

 が、誰も来る気配はない。


 うーん。これはアレだな。グレッグのヤツが退路の確保のついでに敵の無力化までやってくれたんだろうな。殺しはしてないだろうけど。

 つーか、実際問題うっかり殺しそうなのは俺の方である。気を付けねば。


「男爵、まあちゃんとしたソファに座れよ」


 俺はひとり掛けのソファにルイス男爵のデカい体を無理矢理座らせた。椅子の足に男爵の足を、ひじ掛けに男爵の手を持参したロープで拘束する。


「貴様あっ! 何をす――もがっ!?」


 煩いので口には適当な布切れを突っ込んでやる。


「オース、その獣人の子たちの首輪と足枷を斬ってやれ。怪我はさせるなよ」

「はーい!」

「スー! 大丈夫!?」

「シーファンお姉ちゃん!」


 抱き合う獣人のお姉さんと女の子。やっぱ姉妹だったか。

 よかったよかった。

 お、なんか男爵がムームー言ってやがる。

 仕方ないので、口から布を取り出してやる。うわ、汚ねえ。


「貴様! 私の奴隷に何を勝手なことをしてい――もがっ!?」


 俺は再度ルイス男爵の口に布を丸めてねじ込んだ。


「オマエ、まーだ自分の立場ってもんがわかってないみたいだな。奴隷奴隷って言ってるけど、今現在この部屋の中の最底辺はオマエだ、ルイス」

「むー! むーむー!」

「ちゃんと喋れよ。何言ってるか分からねえよ」


 とことん醒めた目で淡々と喋る俺に、ルイス男爵はやっと恐怖を自覚したようだ。

 

「主殿」


 ちょいちょい、とムニスが俺の肩を突いてくる。


「なんだよムニス、今いいとこなんだよ」

「主殿、話し合いとか言うておらんかったかの?」

「アッハイソウデスネ」

「それがなぜこうなるのかの?」

「うーん。我慢できなかったね。まあ交渉はこれからちゃんとするからさ」

「仕方のないやつじゃのう」

「まあ、いつものことじゃん!」

「開き直るでないわ!」

「オース、その二人を部屋の外に出しておいてやってくれ。そんで、俺の用事が終わるまで守ってろ。いいな。手向かうヤツは殺さなければ殴り飛ばしていいぞ」

「かしこまりー!」


「さ、はじめようぜルイス男爵。俺たちの今後についての交渉をさ」


 酷薄な笑みを浮かべて見せてやる。


「もっかい布を口から出してやるから、静かに落ち着いて、冷静に話をしようぜ」

 コクコクと頷くルイス男爵。素直で結構。


「ぶはっ」

「きたなっ。唾飛ばすなよ」

「一体何なのだ貴様は……」

「最初に名乗っただろ。タクシ・ワタラセ。中央自治区行政府の代表としてきている。アンタのとこの門番が悪いんだぜ? 行政府設立の挨拶に来たのに門前払いしやがったんだから」

「その報復で嗜好品の流通差し止めか」

「察しがよくてなによりだ」

「貴様らとて、我々との取引がなくなれば商売に行き詰まるであろう」

「はあ? なんで?」

「我らに売るつもりの商品が不良在庫になるだろうが」

「不良在庫とかむつかしー言葉知ってんだな。ちょっと感心したわ」


 でもな。


「商売相手は何もオマエらだけじゃない。中央自治区の西にはいっぱい新規顧客がいるもんでな」

「……魔族かっ!」

「ぴんぽーん! だいせいかーい!」

「獣人どもに肩入れし、我ら貴族との取引を保護にした挙句、魔族と結託するだと!? 貴様それでも人間か!」


 と、ルイス男爵が吠えた。


「はぁ!?」

「ぐはっ」


 あ、交渉相手を殴ってしまった。いかんな。どんどん物騒になってくな俺。反省。

 

「オマエが言うような、魔族を嫌悪して獣人を奴隷扱いして虐げるのが人間だ、って言うんなら俺は人間じゃなくていいよ。俺とオマエは違う生き物だ。だからオマエを殺すことになんのためらいもない。だって、そうだろ? 人が家畜を殺す時に憐憫の情なんか湧かないないだろう?」

「ひっ」


 オースがさっき壁から取って来た剣を手に取る。


「この剣さ、刃潰してあるよな。まあ装飾用だもんな。これで殺すのってどうしたらいいかわかるか? 斬るんじゃないんだよ。叩き潰すんだ。頭蓋骨が割れるまでな。でも頭蓋って固いからなあ。時間かかるだろうなあ。疲れるよなあ。なあ? どうしたらいいと思う?」

「貴様、望みを言え! 私の命と引き換えだ! それで手を打ってやる!」


 ま、こんなもんか。


「まず、このファーミルトン公国にいる奴隷を全員俺が買い取る。オマエの奴隷だけじゃない、公国の領地全ての奴隷全員だ。今すぐ集めろ。人数が足りなかったらオマエの指を足りない人数と同じだけ切り落とす」

「いや、奴隷はタダで引き渡す……」


 それで恭順の意を示したつもりかね。この馬鹿貴族は。


「駄目だ。これは商売だ。奴隷をオマエらが買った額の七掛けで引き取ってやる」

「わ、わかった。七割だな。受け入れよう」

「計算誤魔化すなよ」


 誤魔化したらどうなるかわかるよな、と剣を軽く動かした。


「次に今後一切、公国内での奴隷の使役をやめてもらう」

「わ、わかった」

「最後に、近隣の貴族のお仲間様方にお伝えしとけ。奴隷を使ってるとこわーい人外のバケモノが来るぞ、ってな」

「や、約束する」


 顔面蒼白で頷いた。

 よしよし。


「この三点を遵守してくれれば今後の取引全般に一定の優遇措置を取る。後日うちの商売担当が書面二通作って送るから、確認して一通は手元にもう一通は押印して送り返してくれ」

「御厚意、感謝する」

「今後とも中央自治区を御贔屓によろしく!」


 オーケー。交渉終了。ミッションコンプリートだな。



 以下、次回!

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