87「お手紙を読まずに破りたいのココロ」
まあ、日帰りはできそうだな……。
成果云々以前の、門前払いという結果なわけだが。
その帰り道。
「どうするつもりかの?」
「嗜好品の取引を一旦止める。庶民の暮らしに被害の出ない品目に限ってな」
「しかしそれでは商売が成り立たなくなる者が出てくるのではないか?」
「魔族に売ればいいんじゃね」
「それで事足りればいいがの」
「レンドルフに仲介頼むことにするわ。新しい販路だって言えばベネディクトなら喜ぶだろ」
「そうかも知れんの」
それにしても、だ。
「あの門番の態度、何様だっつーの」
「大人げないのう主殿は」
「俺たちの街を馬鹿にしやがった。向こうが頭下げてくるまで知らん」
「くっふっふ。俺たちの街、か。随分思い入れを持ってしまったものじゃのぅ」
「悪いか?」
「いいや? むしろ好ましいとすら思うておるよ」
「そっかー」
好ましい、ね。
「大事にしておる場所があれば、人はそこに戻ってこようとするものじゃからの」
「大聖宮で死ぬ気はないですけど?」
「ほぼ死にに行くようなものじゃがの?」
「前向きに頑張れ、ってことで合ってる」
「ま、平たく言えばそうじゃの」
「とはいえ、当面はファーミルトン公――男爵だっけ――の出方次第か。さっさと動いてくれよー……」
中央自治区に戻って事のあらましを伝えた。
ベネディクトには叱られると思ったが、「商売は舐められたら負けです」だそうで、さっさとファーミルトン公国方面への嗜好品の取引停止措置を商人仲間に通達してくれた。
酒やら何やらの嗜好品が入ってこなくなって、お偉いさんに影響が出るのに何日かかるかな。なるべく早く気付いて欲しいもんだが。
一週間ほどして、ファーミルトン公国から、行政府宛てに手紙が来たということで、俺はベネディクトに呼び出された。
ムニスと一緒に行政府に向かう道すがら、
「案外早かったな」
「嗜好品の流通差し止めは貴族連中にはさぞや堪えたのであろ」
「だろうな」
けけけ。ざまあ。
「主殿、悪い顔になっとるぞ」
「おおう、いかんいかん」
外では勇者っぽくしとかないとな。キリッ。
「……その顔、それはそれで気持ち悪いのぅ」
「そういうこと正直に言うの良くないと思うぞ?」
「はて?」
「俺も傷つくんだからな!」
「くふふ。主殿、冗談キツいんじゃが?」
「いやマジですけど!?」
で、行政府に着くなり、会議室に案内された。何気にはじめて入るなこの部屋。
ベネディクトが出迎えてくれる。
「タクシ殿、ご足労いただき申し訳ない」
既にグレッグ、カーティス、フェイの姿があり、お互いに軽く会釈。
俺が一番最後だったようだ。オースはいないが、特に問題は無い。
「いや、こっちこそ面倒かけてすまん。で、手紙の中身はもう読んだのか?」
「はい。先に目を通させていただきました」
文面は抗議文書という体裁で、ファーミルトン公国から早馬で届けられたらしい。
以下次回! ははは、抗議文書ときたか。ははは。




