84「殴り合うだけが戦いじゃあない」
「仕掛けるって言っても、俺が仕掛ける戦争は殺し合いじゃない戦争だよ」
「ふむ? 戦ではない戦か……。まるで謎掛けじゃの」
思案顔のムニスに俺はちょっとした優越感を覚えた。
ついその思いが口から滑った。
「はじめてだな」
「なにがじゃの?」
「俺がムニスに何かを教えるのが、だよ。ついに全知を超えたな! やったぜ!」
「くふふ、ぬかしおるのぅ」
笑ってない。目が笑ってない。サーセン、調子に乗りました。
「俺がやる戦争は、経済戦争ってやつだ」
「ほう、経済とな」
「ムニスはさ、東は聖王宮の勢力圏で小国連合は信仰によってまとまってる、って言ってたよな」
「うむ」
「でもさ、西の果てまでその信仰ってヤツは効いてるのかね。見たことも無いカミサマが飢えや貧困から救ってくれるってみんな信じてると思うか?」
「――いや、そうは思わぬがの」
「自称女神を見た俺は断言するが、カミサマは何もしちゃくれない。『人はパンのみにて生きるにあらず』って元の世界の言葉があるんだけどな、俺からしたら信仰心だけじゃ腹は膨れない」
まあ、個人の信仰心を否定するわけじゃないけどな。
「すがるものが他にないから神頼みしてるだけだろ。そんなものよりより確かなものがこの世の中にはあるのにな」
「金か」
「そう、金。信仰心なんて価値観は全部ぶっこわしてやればいい。大聖宮から遠いところ、つまり中央自治区に近い所から切り崩していくぜ」
世界は救うよ、勿論。
そういう約束だ。
ただし過程は知らん。俺の好きにやらせてもらう。
「価値観か。なるほどの。して、どう動くのかの?」
「とりあえず近隣の小国に出向いて、今後の中央自治区での商取引についてお話しさせてもらって、こっちの考えに賛同してくれれば友好的な関係を結びたい」
むかしむかし日本人はエコノミックアニマルと揶揄されていたという話を聞いたことがある。俺の生まれるよりも随分前のことらしいからよく知らんけども。俺も日本人だし、その系譜ってことで異世界でも経済進出していこうかな、と。そんで東の小国連合間の関係性に亀裂を生じさせたいところである。
「楽しそうじゃの、主殿」
「そうか? ははっ」
俺は今、悪魔じみた笑みを浮かべていることだろう。
とても人様にはお見せできない、勇者の仮面の下の素顔がコレだ。
以下、次回! じゃあ早速ご近所回りに行ってみようか!




