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83「俺とムニスの来し方行く末」


 ――あの後、イベントは剣闘士の模擬戦闘があったり、どこから連れてきたのか大道芸が披露されたりで大いに盛り上がった。

 それはそれとしてベネディクトたちには二度とやるな、と言い含めておいた。

 いや、言葉でですよ? 物理ではないですよ?

 そうして俺とムニスは宿に帰って来た。

 オースは知らん。あいつ、どこに寝泊まりしてるんだろうか。


「今日は楽しかったの!」

「そうだな。俺も楽しかったよ。あの演説はちょっとどうかと思うが」

「くっふっふ。なかなか良かったぞ。帰り道、町雀ちょうじゃくらも盛んに囀っておったくらいにはの」


 よく聞いてるなあ。ムニスイヤーは地獄耳か。


「そっか。ちゃんとわかってもらえたんだったらいいか。って、そうじゃなくて事前にお知らせしてくださいって話だ」

「くふふ。たまには驚かされるのもよかろ」


 サプライズにもほどがあるわ!

 それはさておき。


「いっこ聞きたいんだけどさ」

「なんじゃの?」

「今日のムニス、いつになくはしゃいでただろ? なんかあったか?」

「くふふ。最後じゃからの」


 とムニスは口と声だけで笑った。その目は真剣(マジ)だった。


「最後?」

「我を侮るでないわ。西の魔王とは盟を結んだ。中央自治区は押さえた。いよいよ敵の本丸、東の大聖宮へ往くのであろ? 遊びは今日で終いよ。ここからは本当の殺し合いじゃからの。今日のデートは最後の戯れよの」

「さすぜん」


 と俺は唸ったのだった。


「さすぜん? なんじゃそれは?」

「流石全知。略してさすぜん」

「馬鹿者」


 ムニスはようやく表情を柔らかくしてふっと笑ってくれた。


「でもなムニス。覚悟決めてもらってるところ悪いんだけど、まだ大聖宮にはいかないよ」

「なんじゃと? 後顧の憂いは断った。足場もある程度は固まった。機は熟しておるぞ?」

「いやいや。まだまだこれからだよ」

「機を逸すると負けじゃぞ、タクシ」

「わかってるよ。だからこっちから仕掛けるのさ、戦争を」

「戦争? 彼我の戦力差の分からんおぬしではあるまい?」


 ムニスが胡乱な目付きで俺を見てくる。


「大聖宮は東の小国連合の盟主のような存在じゃ。その気になれば幾らでも兵を動員できるんじゃからの、どれだけ少なく見積もっても一万、無理をすれば十万の軍勢を用意できるはずじゃ」


 十万か。ちょい厳しいね。まあ言うても十万か。ふーむ。


「対してこちらはどうかの? 中央自治区の自警団はせいぜい百人程度。魔王に援軍を求めて仮に応じられたとしても、千人も送ってくれれば御の字じゃろ。どれだけ低く見積もっても戦力比は九対一じゃぞ」


 一万人対千百人じゃあそうなるわな。

 でもな、


「ムニス、そもそもの前提が間違ってるよ、それ。俺は魔族も中央自治区(ここの連中)も東との戦いに巻き込む気はないよ」


「はあ!?」


 うわ、ムニスのそんなリアクション初めて見たわ。


「何を言っておるのかの? 何のために中央自治区を支配化に置いたのじゃ?」

「ははっ。支配下て」


 ま、確かに魔王サマにはココを支配下におくって大見得切った気がするなあ。


「笑いごとではないぞタクシ!」

「いやでもさ」

「でもではなかろう!」


 おおう、めっちゃ怒ってる。

 でもなあ。


「……俺がこの街を変えたかったのは奴隷制度が気に入らなかったからだ。何度でも言うけど損得じゃないし、ましてや兵力としての期待なんかしてないよ」


 ムニスは黙ったまま顎を僅かに動かし、先を促してくる。


「要するに実際には俺、ムニス、オースの三人対最低一万の軍隊の戦争だな。だから最低でも戦力比は三千三百三十三対一だな。それだと一人余るからその分はオースに押し付けよう」

「……本気で言うておるようじゃの」

「ああ、本気だ」


 ムニスは険のある表情を不意に緩め、くふ、といつもの笑みをこぼした。


「馬鹿じゃ馬鹿じゃと思うておったがの。まさかここまでとは思わなんだわ」

「あれ、それって褒めてくれてる?」

「褒めておらぬわ! ――して、主殿。何やらこちらから(いくさ)を仕掛けるとか世迷言をのたまっておったように記憶しておるが、どういうことか説明してもらおうかの?」

「はいよ」



 以下、次回! まともな戦争をやるつもりはないんだなあ、これが。

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