82「拝啓、中央自治区の皆さんへ」
棒立ちの俺に万雷の拍手が降り注ぐ。
おお、すげえすげえ。
他人事のような気分でちょっと笑ってしまう。
しかし、今回は寝込んでいたとはいえベネディクトたちに見事に嵌められた。
特別席を見上げると連中が初めて見る朗らかな笑顔でこちらに手を振っていた。
こんにゃろ。あとでぶん殴ってやろうか。
んで、いつの間にか隣にいるのはいつもの拡声魔法を使う人。
「いつでもどうぞ」
「アッハイ」
『アッハイ』
一瞬遅れて俺の声が闘技場に響き渡った。既にマイクONかよ!
『えーと、はじめまして、タクシといいます。なんでかここに立ってます。中央自治区が誰にとっても住みやすい場所になればと思ってアレコレやってきたらこんなことになってました』
観客席からくすくすと笑い声が聞こえる。
よし、まあまあ掴みはオッケーか?
『みんなはどうしてこの中央自治区に住んでる? 俺は、正直言って逃げてきた。逃げ隠れるには都合のいい場所だったからだ』
俺みたいなヤツは他にも大勢いることだろう。
『何か過去にやらかした者や、脛に傷のある連中。まあ、とにかく前の場所から流れ着いてきたヤツらの最後の吹き溜まり。それが今までの中央自治区だった』
おおう、ブーイングがすごい。
そりゃあ自分が住んでいるところをそんな風に言われたくないわな。
『まあ落ち着いて聞いてくれ。それは今までの、だ。
強請り、暴行、強盗、殺人、そして奴隷剣闘士の殺し合いさえショーとして行われていたこの街を俺は変えたかった。――想像してみてくれ、自分が、或いは自分の大事な人が俺が立っているこの場所で殺し合いを強要されるとしたら?
嫌じゃないか?
俺は絶対に嫌だ。許容できない』
客席が水を打ったように静まり返った。
『だから俺はこの街を変えたいんだ』
届いてるか? わからん。でも喋るしかない。ベネディクトたちに嵌められたとはいえ、これは好機だ。街の皆の意識を変えるための。
『昨日が駄目だったからって、今日や明日も駄目なわけじゃない。現在も未来も変えられる。その気になりさえすれば』
俺は宣言する。
『この街は、悪事以外なら何をやってもいい。そのための支援を行政府が行う。誰がいてもいい。人間も、魔族も、獣人も、エルフも、ドワーフも。誰でもこの街の仲間だ。でもって、何を目指してもいい。商売をしてもいいし、冒険者になってもいい。行政府は人手が足りてないから安定した職を求めるなら行政府で街の発展に貢献する、ってのもいいかもな』
俺は、皆に責任ある自由を満喫してもらいたい。
『悪事以外のことなら、行政府が全面的にサポートする。そのぶんちょこっとだけ税金を貰うけどね。でも、貴族領で搾取されまくるよりは全然緩い税率だからそこのところは安心してほしい』
いや、ほんとに。行政府がペイするかどうかはベネディクト任せだが、無茶な税率にはさせていない。
『ただ、悪事は赦さない。誰かを傷つけること、誰かをだますこと、誰かを差別すること。これらは自警団の取り締まりの対象になるからな。気を付けてくれ』
この街での理不尽を俺は認めない。そのためにここまでやったんだから。
『この街は変わる。もう変わりつつあるよ。めいっぱい良い方向にな』
最後に、
『この街が出発点だ。今の世界の最先端だ。もう吹き溜まりなんかじゃあない。俺はここから世界を正しい姿に変えていく。だから――』
俺は息を大きく吸って、吐いた。
『――だから、みんなも変わっていってくれ。俺はこの街の皆に期待してるから!』
以下、次回! 言いたいことは言えました。ちょっとでも伝わってるといいけどな。




