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80「俺とムニスの真剣デート! 神剣なだけに!!(後編)」


 あの後、話をしていたオープンカフェでケーキセットを奢ってやってムニスはようやく機嫌を直してくれた。なお、「次はもうないからの」との条件付きである。つらい。


 喫茶店はなかなか繁盛しているようで、店員さんが忙しく働いている。

 店員さんもお客さんも様々な種族が入り混じっている。

 人間、獣人、魔族、エルフ、ドワーフなどなど。

 差別も区別もなく、自由。素晴らしい。 


 いいじゃん。やれてるじゃん。


「何をニヤニヤと女子(おなご)の店員を眺めておるのかの? 目の前に我が()るんじゃが? じゃが?」

「ちゃうねん!」


 店員さんも見てたけども! 


「なにが違うのかの? ん? 次は無いと言うた端からやってくれるのう」

「だーかーらー!」

「だから?」

「…………サーセン。でもムニスが一番可愛いッス」


 一瞬の間。


「ふ、ふん! そんなこと言っても騙されんのじゃからの!」


 ちょろい。ちょろぜんち。


 喫茶店を出た後は、自治区全体をぐるりと一周した。

 北の区画の一部は、元奴隷剣闘士をはじめとした獣人たちの居住区となっていた。まあぶっちゃけ廃屋だったのだが、今までが最低未満だったのでみんな楽しそうにしていた。

 

 ベネディクトが力を入れている大通り沿いの貸し商店スペースも結構店が出ていて、値切ったり値引いたり、時々喧嘩になって自警団にしょっぴかれたりしていた。まあ、賑わってるのはいいことだ。


「でさあ、そろそろ行政府がどんな感じになってるか見に行きたいんだけど」


 東門のあたりから反時計回りにぐるりと南までやってきた俺はムニスに提案した。

 すると、


「くふふ。行政府の前にもっと楽しいモノがあるのでな」

「何があんの?」

「行って見てのお楽しみじゃ」

「ふむ」


 なんですかね。えらい勿体つけるじゃないか。


 南北を貫く通りは東西を繋ぐ大通りほどではないにしろ、それでも人でごった返していた。ああ、そうか。行政府のイベントがあるからか。中央自治区に住んでない人も闘技場に入って見ていっていいんだっけか?


 東西と南北の通りの中心に闘技場があり、その脇に行政府を建設中のはずなのだが、そんなことよりも闘技場の真ん前に銅像が立ってるじゃねえか!?


「えっえっ!? ナニコレ、俺の銅像? ナンデ?」


 錯乱する俺をよそにムニスはケラケラと笑っていた。


「顔は三割増しにしてくれておるの」

「やかましいわ!」


 何こんなの建ててんだよ。誰だよ許可したの。

 こんなんクーデター起きた時に倒されて壊されるヤツじゃん。


「いやなに、ベネディクトやらフェイやらが相談に来おっての。主殿は眠っておったのでな。面白そうじゃから我が代理で許可しておいたのじゃ」

「おいこら」


 オマエかーい!


「この銅像、街の職人たちが技術の粋を凝らしたそうでの」

「へえ、そうなのか」


 いや感心している場合ではない。


「魔結晶を内蔵しておっての」

「ほう」


 む、ちょっと気になる。


「なんと夜中に目が光る」


 学校の怪談じゃねーか! 音楽室のベートーヴェンの目が光るやつじゃん。

 もうやだ。人が寝込んでる間に何やってんのムニスとあいつら。


「……タクシよ」

「なんでしょうか」


「我は、この光景を()()()にも見せたかった」


 急にかしこまった口調で、ムニスは言う。

 俺の前の、神剣(ムニス)の主のことだ。


「あやつが夢見ていただろう景色が目の前に広がっておる。こんなに喜ばしいことはない」

「そっか」


 そんな風に言ってもらえると俺も嬉しいな。


「とはいえ、ここまで事を運ぶにあたっての手練手管には大いに問題があったとは思うがの」

「いや、今の俺の精一杯なんで。勇者らしくとか無理なんで」

「勇者らしくなどなくとも良い。タクシらしくあればの。だから、無理して悪ぶらなくて良いからの?」

「……俺は勇者の役割を演じきる。そう決めてるんだよ」


 どれだけ手を汚しても、誰に後ろ指を差されても、この景色を世界中で見れるようにしてやる。それがこの世界を正すことだと思うから。


「辛くなったらいつでも言うがよかろ。なでなでしてやるからの」

「大通りでそういうこと言うなよ!」

「くふふ。主殿、大通りでなく(しとね)でなら言っても良いのかの?」


 以下、次回! 

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