79「俺とムニスの真剣デート! 神剣なだけに!!(前編)」
デート。
デートねえ。
いつ以来だろうな、デートなんて。
元の世界にいた時が最後か……。
「……」
つい、真那のことを思い出してしまった。オマケにメンヘラ女のことも。
「あー、いかんいかん!」
ふつふつと湧きあがる殺意に囚われそうになる。
今は駄目だ。
ソレは後にとっておけ、と俺は自分自身に強く言い聞かせる。
ムニスが「宿の外で待っとるからの」と言っていた。早く着替えないと。
ここんとこずっと世話になっている宿の部屋の隅にあるクローゼットを開けると、買った覚えのない高そうな仕立ての服が入っていた。ムニスの用意だろうか。
これを着てこい、ってことですかね。ですよね。
着てみたらサイズぴったりだった。流石全知。さすぜん。
「お待たせ、ムニス」
「遅いわ! ……っと、よう似合うておるの。流石じゃの、我」
そういうムニスもいつもとは違う装いだった。
白のワンピース。
細かい刺繍がガッツリ入っている。ふわふわのヒラヒラだ。語彙力ねえな俺。
旅装には向かないが、デートには――
「くふふ。何を見惚れておるのかの?」
「んなっ!?」
くそ。顔が赤くなってしまう。
「ほれ、何か言うことがあるじゃろ? ん?」
また催促かよ。わかってる。わかってるよ。
「……似合ってるよ。可愛い、と思う」
感想を述べた口元がムニムニしてしまう。恥ずい。
当のムニス本人は感想を聞くなり俯いてしまった。なんか肩震わせてる。大丈夫か。まあ、なんか笑い声が聞こえるんで大丈夫なんだろう。きっと。
「ところでさ、オースのヤツはどこにいるんだ? ずっと見てねえんだけど」
変な笑い声が止まった。
あれ?
ムニスはキッと俺を見上げ、ビシッを指差してきた。
「減点じゃ! 減点一じゃからの!」
「はい?」
「デートの際に他の女子の話題などするでないわ! この粗忽者め!」
うお!?
殴るな。痛い痛い。
入ってる。急所に入ってるから! 正中線上を的確に穿ってくるのやめて!
「ごめん! ごめんて!」
「……ふん。興が削がれた。もう我はどこにも行かぬ」
ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
なんなの今日のムニス。なんか子供っぽくないか?
だが、このままにしておくわけにもいかん。なんとか機嫌を直してもらわないと。
「そんなこと言うなって! 俺もずっと寝てたからさ、ムニスと色々見たり話したりしたいんだよ」
「我と?」
ちら、と振り返るムニス。
「そう! ムニスと!」
「ふたりでかの?」
「当たり前だろ!」
「……ふむ」
お、ようやくこっちに向きなおってくれた。
「まあ、そこまで言うなら仕方ないの。特別に我が変わりゆく街を案内してやろうかの」
「ありがたき幸せ」
そう言って差し出した俺の左手に、ムニスはしがみついてくる。
ま、手繋ぎデートは無理よな。身長差あるし。
俺はムニスの案内で、大通りに出て街の東側を目指した。
歩いていて気付くのは、
「なんか、綺麗になったか?」
「自警団の者たちが率先して美化に努めておる。それに触発されたのか住民たちも家の前くらいは綺麗にするようになってきておるの」
「おお、なんかすごい」
ちょっと感動。
「ん? あんなとこに小洒落たオープンカフェあったっけ?」
「先日開店しておったの。ケーキがなかなか美味であったの」
「マジか。後で行こうぜ」
「よかろう」
とかやっているうちに東の門が見えてきた。
ん? んん?
「門?」
門なんかあったか? いや、なかった。
「ベネディクトらの発案での、タクシの話を聞いた上で東に対する備えとして門と壁を構築しておる所よ。まだまだ貧相な造りじゃが、これから良くなっていくじゃろ」
壁? 市壁か?
「ちょっと近くで見ていいか?」
「勿論構わぬよ」
俺たちが近づいていくと、門の傍で見張りをしていた自警団の獣人がこちらに気付いた。
「タクシさん!」
お、あの時の若い子か。駆け寄ってくる。
「よお、元気にしてるかー?」
「はい! タクシさんはいかがですか?」
「ははは。しばらく寝てた。疲れが出たのかね」
「あ、あの、僕なんかが言うことじゃないですけど、無理はなさらないでくださいね?」
「ありがと。なるべくそうする」
「えへへ」
「いてっ」
ムニスが腕をつねってくる。なんだよ、もう。
「どうかされました?」
「いや別に」
「それで、今日はどういった御用でしたでしょうか?」
「ん。しばらく表に出てなかったから街の様子を見て回ろ――いてっ。ええと、ムニスとデート中です」
「あ、ムニス様! ご挨拶が遅れて申し訳ございません!」
獣人の子が勢いよく頭を下げるのをムニスは鷹揚に受け入れた。
「よいよい。以前より少々肉付きがよくなったかの?」
「はい! ご飯いっぱい食べさせてもらえるので!」
「それは重畳じゃの。仕事には慣れたかの?」
「はい! 今日は東門の門番の当番日です!」
「しっかり励むがよかろ」
「ありがとうございます!」
「じゃ、俺らはちょっと門とか壁とかテキトーに見せてもらうから、あんまり気にしないでくれ」
「はい! 何かありましたら仰ってください!」
門はまだ木枠が組んであるだけだったが、なかなかのものだった。最終的には石を積むんだろうかね。今も職人さんがせかせか動いている。
壁の方はまだ腰くらいの高さだけど、奥行きは人がすれ違うことができるくらいある。ちょっとした城壁並みだ。そして、えらい遠くまで南北に伸びている。
「ムニス、これどこまで伸びてんの?」
「ベネディクトめが言うには南は穀倉地帯を巻き込むように、北の山際まではその半分ほど、ということらしいがの」
「おいおい。広すぎない?」
「途中途中に物見の塔も設置するから大丈夫とか言っておったの」
「なるほど。現時点で壁の厚さが城壁並みな理由が理解できたわ」
万里の長城みたいなことになりそうだなコレ。
「ところで主殿、理解しておらぬことがあると思うのじゃがの」
「え? 俺、何か間違ってた?」
「さっきの獣人の童、女子じゃからの」
「えっ」
マジで?
「デート中に我を差し置いて他の女子といちゃいちゃしおってからに! 減点二じゃ!」
全知がめっちゃお怒りになっておられる。
以下次回! 男の子だと思ってた! なので許して欲しい。




