78「街が少しずつ新しい形にかわっていく」
中央自治区の中枢となる行政府の建設は順調だった。
初期投資も少なく済んだ。オズワルドの私財を半分ばかり没収したからだ。いやあ、貯め込んでました。マジで。なので金を湯水のように使ってゴリゴリの役所を建設中である。
冒険者への仕事の仲介と商工業関係の窓口は予定通りカーティスの元冒険者ギルド、現「なんでもやる課」に一本化した。新規雇用も含めて人手を増やしているのでなんとか業務自体は回っているみたいでよかった。
ベネディクトが文句を言うかと思ったが、商業地区開発が面白くなってきたらしい。大通り沿いに賃貸可の屋台、露天を綺麗に並べて来訪者には金を落としてもらい、商人にはあわよくば住み着いてもらおうと言う魂胆である。なおベネディクトの肩書は「まちづくり振興課」課長である。本人が気に入ってるみたいで良かった。
自警団に関してはグレッグのところから少し人員を割いてもらったが、基本的には獣人中心の構成となっており、はじめのうちは住民から不安の声がちらほら出ていたが、獣人たちの温厚かつ穏当な振る舞いや抜群の運動性能による犯罪検挙率の高さから徐々に認められる存在になりつつあった。
とまあ、なんだかんだで上手くっている一方で問題もあった。
税金のことだ。
税金を取る取らない以前に、そもそも住民の台帳がなかったのである。さすが異世界、フリーダムだぜ。いや、中央自治区だけかもしらんけど。
グレッグの部門――「税務課兼情報処理課」は当面、住民台帳づくりに精を出すことになりそうだ。
何もかもが思い通りに行くわけはないよなあ、と思う。
「主殿、ほれ食事の時間じゃ」
「うーい」
そして俺はといえば、魔王領から転送門で戻ってきてからここまでの疲れが出たのか、丸一日ぶっ倒れていた。
「どれ、我が食わしてやろうかの」
ムニスのおかげで上げ膳据え膳状態である。
「ほれ、あーん」
「あーん」
でまあ、なんだかんだで俺は一週間近く寝込んでいた。
今日ようやく起きれるようになったわけである。間に合ってよかった。
なんか、今日は闘技場で街の住民を集めたイベントが催されるらしい。
この件についてはベネディクトとかから相談をされていたんだけど、快復しないので全部お任せすることになってしまった。行政府の存在をしっかり認知してもらう意味でも彼らには頑張ってもらいたい。
「タクシよ、今日は起きてこられるようじゃの」
「ありがとうムニス、世話かけたな」
「本当にの。まさか下の世話までさせられるとは思わなんだ」
「えっ」
無意味に股間を両手で隠す俺。
「くふふ。気にするでない。丸一日起きてこなかった時にの」
「マジかー」
「くふふ。かわいいものよ」
手を軽く握って上下に動かすのやめてください。
「さて、身支度をせよ。出掛けるぞ」
「おう? まだ早くない?」
「む、淑女の誘いを断るとは、駄目な男じゃの主殿は」
「今のデートのお誘いだったのか?」
「ふん、知らぬわ。もう我はひとりで行く」
「おい待て! 待って! お願いします!」
部屋を出て行こうとするムニスを慌てて引き留める。
ムニスはドアの前でくるり、と振り返った。
「こういう時、なんと言うべきか知っておるかの?」
つまり、俺の方から改めてデートに誘え、ってことね。
あーもう! あーもう!!
仕方ない。
羞恥心を捨てた俺は、ムニスの前まで行って膝をつき手を差し出した。
「あなたの時間を私にいただけませんか、レディ」
ムニスは会心の笑みと共に俺の手を取って、
「くっふっふ。よかろう、タクシ。早う支度せい」
と言った。
以下、次回! デート回の予定です! 知らんけど!




