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77「心の檻をぶち壊し、そして自由になろう」


 とりあえず感情が高ぶってる獣人(ひと)たちがちょっと落ち着くのを待ってから、俺は話を続けた。


「住むところも一応はあたりをつけてる。ちょっと街外れになるけど、古い空き家が幾つか並んでる通りがあるから、そこを獣人(みんな)の居住区にしようと思う」

「住むところに囲いはあるんですか?」


 さっきの若い子が手を挙げながら問うてきた。


「はい? 囲い?」

「タクシ、我々はいつも高い壁に囲まれて暮らしてきたのだ」


 とフェイが教えてくれた。

 そゆことか。自由なんてどこにもなかったんだもんな……。


「囲い、っていうか家の柵? とかは作りたければ自分で作ればいいんじゃない?」

「僕たちが逃げたらどうするんですか!?」

「逃げるのか?」

「に、逃げませんけど……」

「じゃあいいじゃん」

「どうして――」


 若い子は顔をくしゃくしゃにしてこっちを見てくる。


「あのな、もう一回言うぞ。オマエはもう奴隷じゃないんだ。住むところも、仕事も、自分で選んで自分で決めていいんだ。でもその決断の責任は全部自分のものだ。

今までみたいに誰かに言われて剣を振るうんじゃない。自分の意志で自分の行動を、生き方を決めるんだ」

「……っ!」

「怖いか? 怖いよな。今までそんなこと考えることもなかったんだろうと思うし。だから俺がいる。相談には乗ってやるから」

「本当、ですか?」

「嘘ついて俺がなんか得するのか?」

「でも、僕らにこんなに色々してくれて、それこそ何の得にもならないじゃないですか。なのにどうして――」


 さっきの「どうして」はこれか。心まで檻に入れられてた、ってか。クソが。


「俺は奴隷制度が嫌なんだよ。理由はそれだけ。損得じゃねえの。これ言ったの二回目だからな。それに」

「それに?」


 俺はムニスの存在を意図的に忘却して、言った。


「俺の先輩の勇者がやりたかったことってこーゆーことじゃないかな、とか思うわけですよ」


 それでも恥ずかしくなって段々尻すぼみになってしまった。

 おい、笑うなムニス。聞こえてるぞ。

 そんで獣人たちは全員泣き出しちゃったよ。どうすんのコレ。



 結局のところ、元奴隷剣闘士のほとんどが自警団へと就職してくれた。一部、奴隷になる前に自分で商売をやっていた獣人ひとがいて、その人はベネディクトに預けてみた。差別禁止、暴力暴言禁止を固く言いつけておいた。あいつの凝り固まった価値観が少しでも変わるといいなあ、とか思ってるけど本人次第なんでなんともかんとも。


 そして、フェイ。


「俺は剣闘士なのだ、タクシよ」

「そうだな」

「このまま剣闘士を続けることは可能だろうか」

「いいよ。これからは職業剣闘士だな。試合に勝って報酬で稼いでいこうぜ!」

「む。報酬が貰えるのか?」

「だーかーらー、もう奴隷じゃねえんだってば! いい加減慣れてくれよ」

「むう」

「むう、じゃねえの。フェイも獣人の皆もこれからは自分で稼いで自分を食わせていかないといけないんだよ。奴隷とは違う。自分の主は自分自身だからな」

「我の主はタクシじゃがの」

「ムニス! 混ぜっ返すのやめろよー」

「くふふ、すまぬすまぬ」

「そんなわけだから、負けると自分の食い扶持が減るぞ。頑張れ。ただし、生死を賭けた勝負は今後二度とさせない。殺すな、殺させるな。それだけは守ってくれ」


 ほんとに。お願いだから。


「わかりました。必ず」

「あと敬語やめてくれな?」

「わかりま……わかった」

「それともうひとつお願いがあるんだけどさ」

「なんでしょ……なんだろうか? タクシの頼みなら断る道理はないが」


 言った。言ったな?


「近いうちに闘技場の運営をフェイに任せるから、経営の勉強もしてね。教師役は手配しとくんで」


 俺はかるーい口調で引き継ぎの話を振った。


「はい。……はい!?」

「断る道理はないんだよな、頼むぜ」


 これは丸投げではない。適材適所というやつだ。覚えておこう。テストに出ます。



 以下、次回! 奴隷問題と闘技場関係はこれで解決だろ。よしよし。

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