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75「獣人にとっての勇者とは――」


「理解しかねるかの? じゃがコレは特別頭がおかしくての。心底奴隷制度を嫌っておる」


 と、ムニスは実に可笑しそうに俺を指差して言うのだった。

 対するフェイは、


「人間の娘よ、お前がその男を信用しているのは分かった。だが、この男はよりにもよって勇者様の名を騙ったのだ。獣人である俺にはそれを許すことはできん……!」


 勇者様、ってのは以前のムニスの主のことか。獣人だったってムニスが言ってたよな。だからこそ、彼らにとって「勇者」の名は重いんだろう。きっと。

 そんな俺の胸中など無視してムニスはくふふ、と不敵に笑う。


「ふむ。嘘ではない、と言ったらどうなるかの?」

「嘘ではない……だと……?」

「おぬしの言には二点誤りがあっての。ひとつ、我は人間ではない」


 おいおいおい。突然なんで自分から身バレしちゃってんの!?


「ふたつ、この人間の男――我が主タクシは、正真正銘本物の神剣の勇者よ!」


 そう告げた次の刹那、ムニスの全身が剣に変わり俺の右手に神剣が収まっていた。

 ムニスの声が頭に響く。


『今一度、己が何者であるかを言ってやるがよかろ』


 いや、あの、突然の展開に獣人全員ドン引きしてますけど?


(はよ)うせんか!』


 アッハイ。


「この剣こそ大聖宮の聖剣の間で誰にも抜かれずにいた聖剣、全知の神剣ムニスである。そして俺こそが、その神剣を抜いた勇者タクシだ!」


 俺の滅茶苦茶に恥ずかしい名乗りを聞いた獣人たちが口々に声を上げる。


「全知の神剣……」

「勇者様と同じ剣に認められているのか」

「神剣様が『我が主』と仰っていたのだ。それ以上では!?」

「まさか、真の勇者様…」


 めっちゃざわついてますけど。

 ムニス、これどう収めるつもりなん?


『知らんぞ』


 おいぃっ!?


 とか俺が脳内でムニスとやりあっていると、フェイが急に片膝をついて腕を胸の前に構えた。いわゆる臣下の礼、みたいな恰好。 周りの獣人たちも一斉に膝をついた。え、ちょっとあの、やめて?

 

「知らぬこととはいえ、勇者様にご無礼致しました!」


 フェイが目を伏せたまま――目線を合わせない、貴人に対する作法だろう――先程の発言を詫びた。


「他の者らに罪はありません。どうか私めの命ひとつでご容赦願いたく!」

「あの」

「斬首でも、磔刑でも、お気の済むようになさってくださって構いません。ですから、他の者らの命だけは何卒!」


『くふふ。我の威光を思い知ったかの、主殿』


 いいから幼女(いつも)の姿に戻ってくれ。


『仕方ないのう』


 次の瞬間、俺の右手から剣の重みが消え、ムニスが姿を現した。

 獣人たちが、おお、と再びざわめいた。


「見ての通りじゃ、我はムニス。先代の勇者――おぬしらの同族と共にあったモノよ。今はゆえあって、この人間に力を貸しておる」


「「「神剣ムニス様!」」」


 おいおい、全員平伏しちゃったぞ。どーすんだよこの状況。

 ちら、と横のムニスを見ると、「我の方が敬われておるの。我の勝ちじゃの」とか笑っている。こいつマジで……。


「おぬしらの沙汰はこのタクシがする。そのまま言葉を待つがよかろ」


「「「ははーっ!」」」


 以下、次回! 丸投げはやめなさいよ、と俺は自分のことを棚に上げて思った。


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