74「獣人に信じてもらえない人間」
ギルド長三人に頼むことは全部頼んだ。
あとは闘技場の方だ。奴隷剣闘士たちと話を付ける必要がある。
「ムニスもついてきてくれ」
「うむ。アレはどうするのかの? 賭け試合に出とるようじゃが」
あの馬鹿……。俺が死合ってた時はノリノリでアナウンスしてたと思ったら今度は試合だと。あー。頭痛くなってきた。
「ホントにアレ、ムニスの妹なの?」
「知らぬ。我は知らぬ」
「とりあえず置いていこう。誰が相手でも一対一ならオースは負けないだろ」
「その点については同意するがの」
奴隷剣闘士の控室。
さっき来た時と特に変わったことはない……こともないな。
全員が控室に入ってきた俺をガン見している。
「えーと、俺はタクシって言います。オズワルドに代わって大会組織委員会の会長になりました」
奴隷剣闘士たちの一番前に立っていた獣人が、
「勇者様を騙る不埒者が人殺しをして利権を奪うか」
とめっちゃ罵倒してくる。はいすみません。勇者の名前は騙ってます。
でも、
「えーと、フェイさんだったな。利権は奪ったけど、すぐ手放すよ。今すぐに」
「ぬぅ?」
さて、どうしたもんかね。
上手く説得できるだろうか。
「俺の権限で、剣闘士奴隷という制度を廃止する。そういうことだよ」
俺はフェイを含むその場にいる全ての獣人たちに告げた。
だが、彼らの表情に一様にあるのは、懐疑。
「……貴様に何の益がある? 手を汚してまで得た利権を放り捨てるというのか?」
今まで受けてきた扱いを想えば信じられないのも無理はないよなー、と思いつつ、
「別に損得の問題じゃない」
「損得ではないなら何だというのだ、勇者様を騙る不届き者が」
「好き嫌いだよ」
「……今、なんと言った?」
「好き嫌いの問題だって言ったんだよ。俺は奴隷制度なんてものが気に入らない。だから廃止する。アンタたちを解放する。それだけだ」
「本気で言っているのか、人間」
「その区切りもあんまり好きじゃないんだ」
「?」
「わかんねーかな。人間だとか獣人だとか魔族だとか。それ、関係なくないか? みんな一緒だろ」
「……本気で言っているのか」
今まで俺の横でずっと黙っていたムニスが口を開いた。
「信じられんとは思うが、本気で言っておっての」
以下、次回! ちょっと? ムニスさん?




