72「ぎょうせいふ!!」
「とにかく人の流れを増やすことを第一に考えてくれ。そうすれば勝手に金は落としてくれる。ついでに情報もな」
そう情報。俺が欲しいのはむしろこっちだ。
「だから徴収代行の他に、グレッグのところには諜報活動もやってもらう」
「了解しました。特にご希望の情報はありますか?」
「とにかく東の、大聖宮関係の情報は事の大小問わず全部俺かムニスに回してくれ」
「はい」
「――ということで、商工ギルド会、冒険者ギルド、暗殺者ギルドは解体。新しく作る行政府に全部統合する」
「「「行政府?」」」
お、またハモった。仲良いなアンタら。今後一緒に仕事する上ではいいことだ。
「この街を本当の意味での自治区にする。なんなら国にする」
国、という単語に全員が絶句した。俺は無視して言葉を紡ぐ。
「行政府は闘技場の傍に建設する。大至急だ。建築資金は闘技場のアガリで賄う」
「闘技場の、大会組織委員会の運営費用はどうするおつもりで?」
「そこはだいぶ削減できる。奴隷剣闘士は解放するからな。彼らの食費や武器、防具にかかるコストがなくなる」
「獣人どもを解放!?」
ベネディクトが喚いた。
またオマエか。
「おい、俺はその手の差別が大嫌いだ。二度と言うな。次にその手の発言をしたら今の地位どころかこの世にいられると思うなよ」
これは冗談でもなんでもない。
俺はついさっき、獣人を奴隷にして見世物をやっていた張本人を殺してきたのだから。
「そっちのふたりも、絶対に差別をするな。相手が魔族でも獣人でもエルフでもドワーフでも人間でも、この街で暮らしているなら全員仲間だ。いいな」
「「はい」」
「……はい。以後、重々注意いたします」
ベネディクトは価値観が凝り固まってんなあ。どうしたもんかねこのおじさん。
「行政府を中心として、この中央自治区を機能させる。そのために必要なものはなんでしょう? はい、ベネディクトさ――」
「金ですね」
「正解。流石だな」
突然のクイズ形式に対して食い気味に答えやがった。やるやん。
「先程、後で話すと言っておられましたからな」
それも覚えてたか。
「うん。いままで中央自治区は、アンタたちがなんとなく取りまとめていただけで、ならず者や浮浪者の吹き溜まりだった。嫌な言い方で悪いけど」
それは何故か?
「それは明確な統治機構が存在しなかったからだ。だからその役割を行政府が執り行う。弱者は守る。差別や奴隷制度は許さない。商売の支援をする。その代わりに」
「租税を徴収するのですな?」
ベネディクト、金の話になるとやっぱり鋭いな。
「はいまた正解。その通り、この街の住民から税金を貰うことにしようと思ってる。ただし税率は変動制だ。稼ぎのデカい奴からは多く貰う。稼ぎの少ない奴からも最低額は貰う。基本的に例外は無しだ。でもって、どこぞの貴族の領地みたいに一方的な搾取は絶対にしないし、させない」
「タクシ殿、ひとつよろしいですかな?」
「うん、いいよ。ベネディクトさん」
「このような着想をどこから思いついたのですか?」
「あー、うん。ええと、どこから説明すればいいやら」
所得税をうっすら知ってるから、ってだけなんだけどなー。もう言っちゃうか?
「タクシよ、もうこの者らには打ち明けて良いのではないか?」
「んー。ムニスもそう思う?」
「決めるのは主殿じゃがの」
ということなので告白することにした俺である。
「あのさ、びっくりすると思うけど、落ち着いて聞いてくれ。結構前に、大聖宮から聖剣が盗まれたって話があっただろ。アレが俺。そんで、その聖剣――正確には神剣なんだけど、ソレがこの子。で、俺は神様とやらに別の世界から召喚された勇者なんだわ」
「「「えっ」」」
以下、次回! うん、まあそういうリアクションになるわな。




