71「改革を断行すると抵抗勢力が絶対に出てくるの法則」
「いくらなんでも横暴すぎますぞ!」
「我々にどうしろというんです?」
「冒険者に勝手させると無茶苦茶になるぞ!」
おーおーおー。予想通りの反発だな。
だが、予想以上じゃあない。
「わかった。わかったから。いっこずつ説明するから、一旦落ち着いて俺の話を聞いてくれ」
「しかし!」
ベネディクトがしつこく吠える。
あー、もう面倒だな、と思った時だった。
「……ベネディクト殿」
ムニスの冷めきった、不思議と良く通る声が全員の行動を遮断した。
「我が主は話を聞けと申しておる。聞く気があるなら黙って座っておくがよかろ。もし異論があるなら、一命を賭して申すがよい。つまらん話ならば我が主になり代わり我が綺麗に刈り取ってやるがの」
「……っ!」
幼女から放たれるありえないほどの殺気にベネディクトは言葉を詰まらせた。このタイミングだな。俺は両手を挙げて敵意が無いことを示しつつ、
「あー、えーと、いつでもなんでも力で解決しようとは思ってない。当たり前のことだけどな。俺は現状の課題を解決したい。――だからまずは話を聞いてくれ」
三人はようやく頷いてくれた。
よし、これではじめられる。
俺も席に着けるってもんだ。ムニスが用意してくれた水を一気飲みして、口火を切った。
「さっきギルドを解体するとは言ったが、組織としては残る。組織の名称とやることがちょっと変わるだけだ。だからその点については安心してくれ」
全員が安堵の表情を浮かべたのを確認して、
「まず、商工ギルドの機能はすべて冒険者ギルドに集約する。商人も職人も冒険者も受注と納品、依頼と成果で成立してる点では同じものだ。だから一本化する」
「組織として残すと言ったではないですか!」
まーたベネディクトだよ。
「だから最後まで聞けって。質問は後で受け付けますんで!」
話の途中で腰を折るのはやめてくれ。
ベネディクトを黙らせた俺は、今度は冒険者ギルドのカーティスに視線を移した。
「冒険者ギルドは仕事の仲介を主な業務とする。これは今までと同じのはずだ」
「そうですね。商工ギルド会から数名回してもらえればなんとかなるでしょう」
「よろしく頼みます」
さて、ぶんむくれ状態のネディクトにそろそろ飴玉をあげないとな。
「俺は今後、この自治区内で商売をする者に支援を行うつもりだ。これはベネディクトさんに頼みたい。アンタのノウハウを使って、とにかくスムーズに商売をできるように整えてくれませんかね」
「といいますと? タクシ殿には何か具体的なイメージはありますかな?」
「たとえば……、そうだな。大通り沿いに即席の販売所をずらっと並べるとか。そこの使用料をアンタの部門の収入に充てるってのはどう?」
「なるほど。しかしそれだけでは収支が合いませんぞ」
「だよね。それについては別案ありだ。後で話すよ」
「わかりました。では別の懸念材料として自治区の外で商売がはじまりませんか?」
「自治区の外ってどこのことだ?」
東はまあ分かる。隣接する小国の領土との境界線がそうだろう。それも曖昧な話だが。西は? ちょっと行ったら魔王サマの辺境領の端っこだぞ。
「厳密に外なんて概念ないだろ、この街に。広がり続けてるんだから」
「しかし」
「使用料を取る代わりに、基本的には自由な商売を認めることにする。なんなら新規事業者は一年間使用料を無料にしてもいい。とにかく人の流れを増やすことに注力してくれ」
「人を増やすことの意味は?」
今まで黙っていたグレッグが問うてくるので、俺はざっくりと回答する。
「人の出入りが増えると、街に金が落ちる。商品の売買、食事、宿代、などなど」
「なるほど……」
「ついでに人の行き来が増えればそれだけ護衛の任務も増える」
「冒険者の収入も安定しますね、それは」
カーティスが表情を綻ばせてくれる。ちょっとでも肯定してもらえると有難い。
「しかし、やはり使用料の支払いを渋る者が出るのでは?」
「そういう連中は暗殺者ギルドの連中に任す」
「こ、殺すんですか!?」
「アンタ、俺のことをどんだけ物騒なヤツだと思ってるんだ? そうじゃなくて徴収代行を任せるんだよ!」
以下、次回! ベネディクトから見た俺は相当な極悪人だから、仕方ないかもしれん。




