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67「困っている人を放っておけない、とその元凶が言うのはどうなのか」


 数日後、俺たちは商工ギルド会館を訪ねた。


「毎度どうもー。こんにちはー」

「あっ」

「ギルド(マスター)います? 約束はしてないですけど、困ってません?」

「あっ、少々お待ちください!」


 この受付のお姉さん、よくまあこの状況でも働いてるよなあ。義理堅いのか危機感足りてないのか、何も知らないのか。あるいは単に図太いだけか?


「どうもー」

「今日はどういったご用向きで?」


 ベネディクトの顔面に張り付いた笑顔は盛大に引きつっていた。声も震えている。


「魔結晶の商談に来ました」

「もう結構! これ以上は当方では買い取りません!」


 ですよねー。


「おや? 『また何かありましたら私宛に』と仰っていたじゃありませんか」

「そのように申し上げましたが、魔結晶をこれ以上仕入れることはありません!」

「いやだなあ、ベネディクトさん。逆ですよ、逆」


 俺は口を歪めた。笑みの形に。


「……っ!?」

「魔結晶、派手に余らせてるんでしょう? 買い取りますよ、金額次第ですがね」


 右手の親指と人差し指を輪の形にして金金(カネカネ)、とジェスチャーをしてやる。


「貴様ぁっ!」

「取引相手になんて言葉遣いするんですか」

「この私を(たばか)っておいて!」

「なんのことです?」

「貴様と魔結晶の取引をした当日、魔族が大挙して魔結晶を売りにやってきたのだ。そのせいで自治区の魔結晶需要はほぼ満たされている状況だ! 全て貴様の仕込みだろう!」


 全くその通りなのだが、証拠はない。少なくともベネディクトには。


「どうやって魔族と連携を取ったと? 何か証拠がおありで? 言いがかりはやめていただきたい。魔族が人間を商談相手以上の扱いをするとお思いですか?」


 ここは魔族への誤解と偏見を利用させてもらう。すまんなレンドルフ。


「……」


 流石に根拠が弱いのは本人も自覚しているらしく黙り込むベネディクト。

 俺の方も言われっぱなしも癪なので、


「それを言うならあなたも暗殺者ギルドに私を襲わせたでしょう?」


 と言ったら顔色が変わった。


「それこそ言いがかりだ! 証拠でもあるのかね!」

「証拠ならありますよ。ねえ、ギルマス?」


 俺の視線が向けた先――ベネディクトの背後――には、いつの間にか暗殺者ギルドのギルド長のグレッグが佇んでいた。


 暗殺者ギルドのギルド(マスター)、グレッグは証言した。


「タクシ殿の仰る通りです。私ども暗殺者ギルドはベネディクト氏より、あなたの暗殺を受注しました」

「ということらしいですが?」


 ベネディクトはもう俺の方は見ていなかった。背後のグレッグに掴みかかる。

 同じギルマスでも商人と暗殺者では勝負にならない。

 グレッグにあっさりと組み伏せられてしまう。


「貴様、裏切ったな!」

「……」

「やめろよ。もうアンタ、詰んでるんだよ。上手い負け方を選ぶ頃合いだ」

「上手い負け方、だと?」

「ああ」


 俺は絨毯の上に膝をつきベネディクトと視線を合わせると、怒りと焦燥がないまぜになった昏い炎が目の奥で燻っているように見えた。


「俺がアンタの手元でダブついている魔結晶を買い取ってやるよ。今の市価の七掛けでいい。一個七銀貨だな。まあ、一万個まるまる余ってるなら七万銀貨か」

「ふざけるな! 一個三十九銀貨で売りつけたものを七銀貨で買い取るだと!」


 激昂するベネディクトだったが、吠える以外にできることはあるまい。


「俺は別に要らないんで買い取らなくてもいいんですけどね。ベネディクトさん、アンタ、ギルドの余剰資金か何かに手を付けただろ、今回。幾らあんたでもあの量の金貨を即金で、しかも個人が用意することは不可能だ」

「……っ!」

「負債は少しでも補填しといた方がいいんじゃないか? ギルマスの座から引きずり降ろされるぜ?」


 もう選択肢は残されていない。俺の提案に頷く以外には。


 以下、次回! なんというか俺、悪人みたいだな。善人でもないけど。

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