66「インサイダー? マッチポンプ? まあどっちでもいい」
ベネディクト氏、の粘り勝ち、か? もうちょい稼げると思ったんだが。
まあ別にこっちは困らん。
即金で、という条件を付けたしな。
今、ヤツは金の工面をしている。
三十九万銀貨、金貨で三千九百枚か。まあ仮にも商工ギルド会だ。それくらいは無理して掻き集めればギリギリなんとかなるだろう。
「ムニス、オース。オマエらも座ったら? もうちょいかかるぞコレ。茶菓子でも食ったら?」
「ふむ」
「やったー!」
「タクシよ。この取引で儲けるのがおぬしの策か?」
「まさか、俺はそんなに善人じゃない。この取引が破滅への引き金になる」
「ほう」
「今、レンドルフが動いてくれてる。結果はすぐに出るさ」
茶を飲み終え、菓子も(主にオースが)あらかた食い尽くしたところで、ベネディクトが戻って来た。
「用意できました。ご確認を」
でかい革袋がパツパツになってんな。
「ムニス、頼むわ」
「うむ」
ムニスはその細腕で軽々と革袋を持ち上げる。
「重量は合っておるの」
さすが全知。
「主殿、我を秤扱いするのはいかがなものかと思うのじゃが」
「ごめんごめん! じゃ、ベネディクトさん。俺たちはこれで」
用事は済んだ。さっさと退散しよう。
そんな俺の背中にベネディクト氏は明るく声をかけてくる。
「また何かありましたら私宛にお願いいたします!」
また何かあったら、ね。
「ええ、その時は是非」
俺はにっこり笑ってそう答えた。
どうせまたすぐに来ることになるだろうからな。
「よお、レンドルフ。売れ行きはどうよ?」
「魔結晶が普段の倍の値段で飛ぶように売れている!」
まあ俺が無理矢理供給絶ってたからなあ。需要が跳ね上がってるもんなあ。
俺は魔王サマとの会談の時、魔王領からの魔結晶の流通を一時的に止めてもらえるよう依頼しておいたのだ。ついでに増産も頼んであった。おそらく莫大な量の魔結晶が辺境領に集積されていたはずだ。そして、その大量の魔結晶が今、ここで売り捌かれている真っ最中。
つまり、今回の魔結晶不足による高騰も俺が全部仕組んだことなわけだ。インサイダー取引もいいところである。白か黒かで言えば明確に黒いことをやっている。
とはいえ、勝つためには手段を選んではいられない。
「そっか。で、なんぼで売ってんの?」
「十銀貨だが」
「やっす!」
善良過ぎる魔族は真顔で、
「いや、しかし普段の倍の価格だぞ」
「うーん。レンドルフ、オマエ商才ないわー。ちなみに魔結晶どれくらいの量を持ってきたんだ?」
「二十万個ほどか」
全部売れても三百万銀貨か。ま、そんなもんか。あんまり高値で売りつけても今後の信用にかかわるしな。レンドルフくらいの善良さでちょうどいいのかもしれんなあ。
これで余計にベネディクト氏の進退は窮まったことになる。ざまあみろ。
「あ、そうだ。預かっといた一万個な、三十九万銀貨で売れたぞ。ほれ、これその分の金貨な。ちょっと今後の資金が要るんで九百金貨ほど貰ってるけど、それは目を瞑ってくれ」
「それは構わんが、ど、どういうことだ? 何をどうしたらそんな価格で売れるのだ!?」
「どういうことでしょうねえ。業突く張りはどこにでもいるんだよ。そんなことよりレンドルフ、今が売り時だ。十銀貨でいいから売りまくれ。二十万個全部売り切るつもりでな」
以下、次回! 結局、レンドルフは魔結晶を全部売り切ることに成功した。




