６５「Let's showdown!!（商談しましょう！の意）」
翌朝、日も昇らないうちから中央自治区を出た。
途中、屋台で朝飯を二人分購入。
魔王領側――東側の自治区境界線を越えてしばらく行った街路沿い。
大樹の陰に佇む魔族の男がこちらに気付き手を挙げてくれる。
俺は自然と笑みがこぼれるのを自覚しつつ、手を振り返した。
「よ、久しぶりだな、レンドルフ。元気にしてたか？」
「貴公も元気そうで何よりだ」
今回はレンドルフの方が握手を求めてきてくれた。
そんな些細なことが嬉しい。
しっかりと握り返しながら、
「魔王サマに頼んどいた件だけど、段取りどんな感じ？」
「万端整っている」
「面倒かけたな。実家の家計は大丈夫か？」
「いや、魔王様より多大な支援を賜ったのでな、むしろ生活は楽だったぞ」
「それならいいんだけど」
一番心配していたところだ。魔王サマが配慮してくれたらしい。有難い。
「これからどうするつもりだ、タクシ」
「商工ギルド会に仕掛ける。まあ、勝てる勝負だけどな。午後イチで商工ギルド会の長と会ってくる。俺が商談してる間に事を進めてくれ」
「わかった」
多くは聞かず、レンドルフはただ頷いてくれた。
信頼してくれてる、と思っていいんかね。
「それまではちょっと休憩だ。朝飯買ってきたから食おうぜ」
「色々聞かせてもらうぞ。大兄上の処刑が保留になっている件、貴公が何かしたのだろう？」
「さて知らねーな」
「とぼけるな」
「いやほんとに。全くもってこれっぽっちも心当たりねーんだわ」
「貴公は相変わらずだな……」
ちょっと座って一緒にメシ食いながらレンドルフと色々話をしたりなどした。
こういう時間は大切にしたい。
「こんちはー。ギルド長いますかー？」
「あっ、あの」
お馴染みいつもの受付の人。
「約束はしてない。魔結晶持ってきたから、って伝えてください」
商談場所は前回と同じ二階の部屋。
違うのは俺が魔結晶の詰まった箱を持ってきていることだ。
ローテーブルの上にどん、と置いてある。
「いやー、大変でしたよ。昨日、なんか変な連中に襲われてしまいまして。冒険者を雇っておいてよかったです。自治区といっても物騒ですねえ」
「ご、ご無事で何よりでしたな」
「本当ですよねえ。僕みたいな若輩の行商人なんか狙っても得る者は少ないでしょうに。魔結晶のことがどこかから漏れたんですかねえ」
「そうかもしれませんな。お互い身辺には十分注意せねばなりませんな」
鉄面皮だな。
けど、白を切り通せると思ってんのか？
まあいい。そっちはどうでもいいんだ。
「それで、物騒なので現物をさっさと手放してしまおうかな、と思いまして」
「ほう。それはそれは」
ベネディクトの目が欲望に染まる。
「昨日雇った冒険者には魔結晶で報酬を払ったんですがね。金欠だったのかすぐに売り払った者がいまして、なんと一個三十銀貨で売れたそうですよ」
「な、なるほど」
「いかがです？ 魔結晶一万個、あなたの才覚であれば今なら一個五十銀貨でも六十銀貨でも売れるのではないでしょうか？」
さあ、考えろ。
幾ら出す。幾らまで出せば儲かると思ってる？
昨日の条件提示じゃ駄目なのはわかってるだろ？
宝の山が目の前にあるぜ？
「一個あたり銀貨三十五枚で……」
駄目だコイツ。しょっぱすぎる。
「この商談はなかったことに」
と俺がソファから腰を浮かしかけると、
「三十七枚！」
刻んでくるねえ。
俺はやれやれとばかりに大げさな動作で座りなおす。
「取引先は何もあなただけではないのです。よくお考えください。時間はそうありませんが」
「むむ」
考えろ考えろ。
時間はアンタに味方しないけどな。
以下、次回！ 破滅はすぐそこだ。この部屋にいる限り気付かないだろうがな。
