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64「俺は王道を往くべき人間らしいですよ?」


 左手の指が全部終わって右手の小指まで逝ったところで、ギルド長は俺に目で訴えてきた。ようやくというか意外と早かったというか。


「ま、話す気になってくれたならそれでいいか」


 口に突っ込んでいた布を出してやると、


「貴様あっ! 俺を誰だと思ってやが……ぐはっ」


 殴った。


「まだ分かってねえのか。質問するのは俺。アンタは答える係だ。オーケー? んで、もっかい聞くけど暗殺者ギルド(おたくら)は誰の依頼で今回宿屋を襲撃した?」

「依頼人の情報を漏らすこと……げふっ」


 殴ると手が痛い。知ってたけど再確認したくはないことだ。


「職業意識が高いのは結構だけど相手と状況を考慮した方がいいんでない?」


 俺は右手の薬指に手をかけた。

 七本目ともなるとさすがに慣れてくる。勿論慣れたくなどない。


「待て!」

「待たない」


 折った感触が手に残る。苦悶の呻きが耳朶を打つ。

 だが俺は決して無表情を崩さない。崩せない。


「拷問はやったことないから効果的な方法がイマイチわからんな。あ、本人以外をやるってのは漫画か何かで見たことがあったな。オース、ちょっと外で気絶してる連中、誰でもいいからひとり連れてきて」


 俺が淡々と指示を出すと、オースは「はいはーい!」と返事をして勢いよく拷問部屋から飛び出していった。


「貴様! 何をする気だ!」

「いや、アンタ、このままだといつまで経っても口割らなそうだからさ。目の前でアンタの部下を一人ずつ解体していこうかな、と」


「貴様それでも人間か!?」


 暗殺者ギルドの人に言われたくないセリフだなそりゃ。


「似たようなこと、やってきたんだろ? 文句言うなよ」

「貴様に人が殺せるのか? 暗殺者ギルドに殴り込みをかけておきながら全員気絶させるにとどめているような貴様に」


 この期に及んでその挑発はどうかと思う。

 一線を越える覚悟などとっくにできている俺に対して。


「できるよ」


 俺は腰の小剣を抜いて、男の首に突き立てた。僅かに皮膚を切り裂き、血が出る。


「こう見えても人体の構造は全知(べんきょう)済みでね。今、刃が触れてるのが頸動脈だ。動くなよ。アンタも詳しいだろうからいちいち言うまでもないけどさ、動くと死んじまうよ。まあ、これ以上手間かけさせるんだったら俺が斬っちゃうんだけどさ」

「貴様の目的は、一体なんなんだ……」

「質問するのは俺なんだけどなー。まあいいや、答えてやるよ。超短期的にはアンタから必要な情報を引き出すこと、かな。長期的には、世界平和だ」


「せかいへいわ、だと?」


「そう。世界平和」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどおらぬよ」


 後ろでずっと俺を見ていたムニスが平坦な口調で告げた。


「その者は大真面目に言っておる。世界を正す、と。その手始めがコレらしい」

「……」

「そんなわけで、世界のために全てを吐くか世界のために死んでくれ」


 厳密に言うと世界のためじゃなくて真那のためなんだけど、いちいち説明するような話ではない。


「世界を正す? 世界平和!? 勇者にでもなったつもりか?」


 暗殺者ギルドのギルド長が吠えた。


「つもりというか、勇者そのものですが、何か?」


 俺はいたって真剣なのだが。


「ほざけ! こんな無茶苦茶な勇者がいてたまるか!」

「知らんがな。オマエのイメージする勇者像がどんな高潔な人物かはわからんが、俺は結果を出さないといけないんでな。――知らないか? 聖王宮で聖剣が抜かれた、って話」

「盗まれた、とは聞いているが……」

「そうそう。あれ俺な。聖剣に選ばれし勇者なんだよ俺。だから、世界を救うためならこの手を汚すことも厭わないよ」


 嘘だが。

 できれば手を汚したくはない。

 でも真那を救うためなら、なんでもやる。それだけの話だ。


「そんでさあ」


 と俺は手にした小剣をつぷり、とわずかに刺し入れた。


「世界平和のためでも、勇者に脅されたからでも、自分の命を守るためでも、なんでもいいから自分を納得させる理由をいい加減捻りだしてもらえないか? そろそろ俺も疲れてきたんで、手が滑る頃合いだぜ?」

「わかった。全て話す。私はどうなってもいい。配下の者の命だけは保証してくれ」


「頼める立場と思ってんのか? 人殺しでメシ食ってたオマエらが殺される側に回った途端にごめんなさい、ってか?」


 そんな調子のいい話があるか。ちょっとキレそう。


「我が主よ」


 ムニスがそんな俺の袖を掴んだ。


「おぬしは覇道ではなく王道を往くべき者よ。無論、選ぶのはおぬしじゃがの」


 ムニスは僅かに眉根を寄せて俺をじっと見ている。

 俺は瞑目して、少し、ほんの少しだけ考え、


「……わーったよ。ムニスに免じてここまでにしとく」

「うむ!」


 満面の笑みで頷かれてしまった。

 かなわねえなあ。

 俺は首筋に当てていた小剣をひっこめて、


「つーことだから、えーと、アンタ名前なんていうんだっけ?」

「……グレッグだ」

「オーケー、グレッグ。これは契約だ。俺はお前を許す。部下の命も保証する。だからお前は俺を絶対に裏切るな。裏切ったら次は確実に殺す。暗殺稼業はしかたねえが、悪人以外を殺すな。一般人に手を出すな。それで稼ぎが足りねえってんなら俺の仕事を手伝え」

「わかった。約束する。……ところで、あんたの仕事っていうのは?」

「さっきも言ったろ。世界を救う勇者のお仕事さ」



 以下、次回! 王道を往け、か。今更無理では?


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