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62「光に集まる蛾のように」


 俺は雇った冒険者全員を、とある宿屋の護衛に回した。

 ちなみに保護対象の部屋は無人。ムニスに頼んで即興で罠をしかけてもらっているくらいだ。冒険者たちには余計なことは一切伝えず部屋そのものを護衛するよう指示してある。


 一方の俺たちはというと、その宿屋の近く、オースがねぐらにしていた廃屋に身を潜めていた。


「さて、主殿。そろそろ説明してもらおうかの」


 ムニスはご機嫌斜めである。


「今日はベッドで眠れると思ったんじゃがの?」

「あー、はい。その点は申し訳ない」


 まともな宿屋のベッドとホコリとカビの匂いのする廃屋の床では寝心地以前の問題であるし、浮浪児も何人かたむろしている。一番小さい子は五歳くらいだろうか。オースのやつが「ごめんねー。すぐ済むから許してねー」とか言ってあやしている。


「わかってると思うけど宿屋(アレ)は囮なんだ。商工ギルド長がなんらかの手段でちょっかいかけてくるだろうからな。その相手を雇った冒険者にやってもらう」

「ほう」

「直接来るってことはないだろうから」

「暗殺者ギルド、かの」

「その線が一番濃厚かと思うんだけどな」

「宿屋を戦場に冒険者と暗殺者を潰し合わせるという魂胆かの」

「そのつもり。冒険者ギルドには特に恨みはないけど多少弱体化してほしくはあるしな」


 ムニスがうわあ、という顔をした。


「呆れた勇者様じゃの」

「報酬は先払いしてあるし依頼をこなすのが冒険者だ。暗殺者が来るのは俺のせいじゃないよ。ま、しばらく様子見だ」


 煽るだけ煽っておいたんだ。なんかしらすぐ来るだろ。

 





 日が沈み夜になり、徐々に人気が少なくなっていく。

 護衛を依頼した冒険者たちの気も大概緩み切っている時間帯。


 破裂音。

 悲鳴。

 怒号。

 剣戟。


 それらが立て続けに、俺が宿泊していることになっている宿屋の方から聞こえてきた。


「お、はじまったはじまった」

「楽しそうじゃの」

「いやあ、ここまで思った通りにことが運ぶとね」

「凡愚が賢しらぶると小石に躓くからの。しかと注意せよ」


 笑顔の俺にムニスがやれやれ顔で指摘してくる。

 凡愚。凡愚て。


「はい……」


 サーセン。調子に乗りました。


「わかればよいがの」


 まあ全知から見ればみんな漏れなく凡愚だ。気に病むのはやめよう。

 そんなことよりも、


「ムニス、あの襲撃してる側ってさ」

「暗殺者ギルドの構成員じゃの」

「たぶん商工ギルド長からの依頼を受けてるんだと思うんだが」

「そうじゃろうな。で、これからどうするつもりかの?」

「暗殺者ギルドを急襲してギルド長を捕まえてやる」

「場所は? 知っておるのかの?」

「ムニスが知ってるだろ」


 俺がしれっとそう言うとムニスは苦笑。


「人使いの荒い主殿じゃの」

「中央自治区を良くするためだと思って、付き合ってくださいよぉ」

「気持ち悪い猫なで声を出すでないわ! 頼まれずとも案内(あない)するからついて来い」

「私はー?」


 子供たちを寝かしつけていたオースにジェスチャーで「来い来い」とする。


「オースも来てくれ。殴る相手がたんまりいるぞ」

「それいいですね! やったー!」


 喜ぶなよ。怖い奴だな。


「殴り過ぎて殺さないようにだけ気を付けてくれよ!」

「えっ。そんなのわかってますよ?」

「ホントにか?」

「ホントホント。まだ殴り殺したことないですもん!」

「ムニスー、オマエの妹やっぱりポンコツだぞ」

「妹じゃないからの!」

「お姉様ー!?」


 以下、次回! 暗殺者ギルドに聞き込み(物理)に行くぞ!


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