61「冒険者ギルドには暇人がいっぱい」
商工ギルド会館を出て、チラっと振り返る。
尾行の気配は――まあ、いいか。
「商工ギルド会はあんなもんだろ」
「火種を作っただけのように感じたがの?」
「計画通り」
と俺は邪悪に笑った。
「煽れるだけ煽ったし」
「おぬし、何を企んでおる? 事前に聞いた段取り通りに進んでおるようじゃが」
「さて、どうなるかは商工ギルドの出方次第なんだけど」
「馬鹿が策を弄するとロクなことにならんぞ」
「お姉様いいこと言うー!」
オースは黙ってろ。
「でもさ、自分が賢いと思ってる馬鹿と自分が馬鹿だと知ってる馬鹿が争ったら、どっちが勝つと思う?」
「ふむ。それなら後者かの」
「そういうこと。あのベネディクトってオッサンは俺を出し抜けると思ってる。隙のある奴なら俺のアタマでもどうにかなるだろ。いざとなったらこっちには全知もいるしな!」
「今回はあまり手助けする気はないがの。我は主殿のお手並み拝見と洒落こみたいところじゃ」
「おう。特等席でみせてやるぜ。ところでオース」
「なんですかー?」
「オマエさ、今までどこに住んでたの? ずっと中央自治区にいたのか?」
「そーですよー。お姉様の気配を追って大聖宮を抜け出して来たんですど、ここで途切れてたから待ってたんですよー。魔王領は魔族の匂いが強すぎて気配を追えなくなっちゃいまして」
「ふうん」
犬みたいなヤツだな。
「大通りからちょっと離れたところにある廃屋をねぐらにしてましたけどー?」
浮浪児みたいなやつだな。いや、実際浮浪児もたむろしてるんだろうな。この街は貧富の差、階級の差が激しすぎる。力の無い者には生きにくい場所だ。だが他に行き場もないのだろう。
困ったもんだ。
「……よし。じゃあ次行こう、次」
「次とな?」
「ああ、次は冒険者ギルドだ」
冒険者ギルドは市街中央からはやや離れたところにあった。
どちらかといえば外周部に近い。
煉瓦造りのそこそこしっかりした建物だ。
「ムニスは悪いけど剣になってくれるか? オースはフードを深くかぶっておいてくれ。俺が良いって言うまで絶対喋るなよ。俺の従者、って感じで近くに立っててくれ」
「ふむ。よかろう」
「了解ですー」
剣になった――というか戻った――ムニスを用意しておいた鞘に納め、俺とオースは建物の中に入った。
結構な人数の冒険者がたむろしているのがまず目に入ってくる。
まだ日の高いうちから酒など飲んだりしている連中もいる。
仕事しろよ仕事をよ。
そいつらの好奇と敵意の混ざりあった視線を感じつつ、一番奥にいる受付のお姉さんにところまで進む。
「こんにちは! 冒険者の方ですか? それともご依頼ですか?」
「ええと、護衛の依頼をしたいのです」
なるべく気弱なキャラを装ってみる。
「護衛、ですか」
「ええ、この街に滞在中。一週間ほどですが、私の泊る宿の警備をお願いしたいんですが、可能でしょうか?」
「可能ですよ。ただ、ご予算はどの程度をお考えですか? 金額次第で雇える冒険者のランクが変わってきますので」
「ええと一人当たり魔結晶ひとつ、でどうでしょう」
俺の言葉に一瞬ギルド内の空気が凍り付いた。直後、騒ぎ出す。
「……十分過ぎますね」
まあ今の市場価格からすれば払い過ぎだろうな、とは俺も思う。
だが知らん顔で、
「そういうものですか」
とだけ言っておく。世間知らずの坊ちゃん商人だとでも勘違いしてもらえるといいんだが。
「じゃあ、さしあたり十名ほどを雇いたいです」
聞き耳を立てていた冒険者たちが、依頼書を作成する前に我も我もと殺到してきた。ありがたいわー、金に目がくらむようなわかりやすい連中で。とりあえずなるべく強そうなメンツを雇っておいた。
報酬は先渡しにしておく。受け取った魔結晶をすぐに売りに行く奴もいる程度には、魔結晶の価格は高騰している。ほぼ予定通り。よしよし。
以下、次回! これで仕込みは完了。




