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60「話にならないので提案を突き返してみたゾ」


 俺はなるべく商人らしい笑みを顔に張り付け、俺は懐から魔結晶をひとつ取り出して渡した。


「どうぞ、ご確認を」


 ベネディクトは手に取り、矯めつ眇めつして状態を確認した。


「ほう。これほど質の高い魔結晶は珍しいですな」

「そう言っていただけると苦労が報われるというものです」

「数量はいかほど仕入れられましたか?」

「これと同質のものを一万個ほど」

「一万!?」


 しれっと答えてやると、ベネディクトは目を見開いた。

 俺は更なる揺さぶりをかける。


「今後の取引についても先方には前向きに検討していただけています」

「先方とは、その」

「ええ、魔族です」

「なんと」


 ベネディクトは驚愕の裏で皮算用している。

 してるだろ?

 わかるよ。降って湧いたデカい儲け話だもんな。


「いかがです? いくらで買い取っていただけますか?」


 俺の問いに、ベネディクトはやや考えるそぶりを見せた。

 そして提示してきたのが、


「一個あたり銀貨五枚、いや十枚でいかがです」


 これである。


 舐めてんのかこいつ。今、一個二十枚まで高騰してるって聞いてるぞ。

 まあそんなことはおくびにも出さず、


「残念ですが、その価格では顧客と直接取引をした方が私に利益が多そうですね」


 とだけ言っておいてやった。

 さあ、ボールはそっちに投げ返してやったぞ。どう出る? おそらく魔晶石の品薄がこのまま続けば銀貨三十枚くらいの値は付くだろうと踏んでいるはずだ。これに食いつかなければ商人ではない。


「……そうですな。それではタクシ殿、ひとつ提案なのですが」



 提案、ね。

 どうせロクな提案じゃあるまい。


「我が商工ギルド会に加入されませんか? 無論、幹部待遇をお約束します」


 予想以上に噴飯モノの提案がきたな。笑いを堪えるのも結構大変なんだが。


「失礼ながら、私に何のメリットが?」

「ギルド所属の商人たちの上がりの一部がギルド会へ、ひいては幹部に入ってきます」


 うわあ。えげつねえ。そんなことしてんのかよこいつら。即刻潰れろ。


「つまり搾取している、と。分け前をやるから悪事に加担しろと?」


 冷たく突き放すとベネディクトは顔色を一変させた。穏から険へ。一瞬のことだったが確かに。

 それを誤魔化すように慌てて手と首を振って、


「いえいえ! 私どもは中央自治区の市場コントロールしているのです。それには様々な調整コストがかかる。その代価とお考えいただきたい」

「そんな風に仰られますけど魔晶石の価格は暴騰してますよね。全くコントロールできてないようにお見受けしますが、そのあたりどのようにお考えですか?」


「ぐっ」


 一言も返せないベネディクトに駄目押しを食らわせてやる。


「なんにしろそういったお話でしたらお断りします。弱者から搾取するような方とは組めません。今回の商談のお話も、こちらから持ち掛けておいてなんですが、なかったことにさせていただきます。では失礼」


 俺はムニスとオースを連れて応接室から退席した。

 背中に殺意に近い敵意を感じながら。



 以下、次回! さて、どうなりますことやら。


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