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59「商工ギルド長と商談をしよう(アポなし)」


 シェイルに小剣を手入れしてもらっている間に、表でオースと軽く手合わせした。

 結果だけ言うとボコボコにされた。

 人体の急所という急所を打たれて俺は地面に転がされていた。


「こ、ここまで差があるのか……」

「ふふーん! おそれいりましたか!」

「素手で相手をするのは無理じゃろ。コレは我の搾り滓じゃが、剣としての力をそれなりに持っていっておるようじゃしの」

「マジすか」

「まあ、戦力増強したと思うがよかろ。幸い我の言うことは効きそうじゃしの」

「お姉様の言うことは聞きますよ! よわよわ御主人様の言うことはちょっとアレですけど!」


 よわよわて。まあ弱いんだけど。

 ムニスの言うことを聞くんであれば問題ない。


「オース、ちょっと聞きたいんだけどさ。最近の中央自治区でなんか変わったことはないか?」

「わかんないでーす!」


 アッハイ。期待してなかったけどな。


 その後手入れ済みの小剣を受け取って、


「シェイル、最近の中央自治区ってどう?」

「どうとは?」

「以前と変わったことないかな?」

「ふむ。少々物流がな。東からの、魔王領からの物流がかなり減っているようだな。特に魔結晶の不足は深刻な問題になりつつあるようだ。今では一個銀貨二十枚はくだらないほど高騰しているぞ」

「ほうほう」

「一部では魔王が戦備えをしているのではないかという噂も出ている」


 違う違う。


「考えすぎだなそりゃ」

「ふむ、魔王領帰りのタクシが言うのならそうなのだろう。戦がないに越したことはない。が、その噂のせいで武器の注文も増えた」

「忙しい所申し訳ない」


「構わん。私の作った剣の手入れは私がやるべきことだ」

「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。しばらくは中央自治区にいるけど、ちょっとやることあるんで、それが終わったらまた来るわ」

「そうか。何をするのか知らんが、気を付けてな」

「おう」


 事前の仕込みはだいたい予定通りに利いてるな。

 そんじゃ行ってみますか。


「どこへ行くのじゃ?」

「まずは商工ギルド会かな」






 ギルド会館は街の比較的中央部に建つご立派な建物だった。

 入ってすぐのガラガラのロビーの奥に受付があった。

 受付の女の子がいらっしゃいませー、と気怠げに声をかけてくる。


「こんちはー。ギルド長と面会したいんですけどー」

「お約束はされておられますか?」


 ですよね。

 まあこの辺は想定内。


「約束はないけど、魔結晶の件で、と伝えてもらえますか?」


 受付のお姉さんがはっと表情を変えた。

 顔に出るようじゃまだまだだな。


「しょ、少々お待ちくださいませ」


 と言い残し、受付のお姉さんは奥に引っ込んでいった。



 待つことしばし、俺たちは二階の応接間らしき部屋に通された。

 現れたのはダンディなオジサン。身なりもいいし、態度も丁寧。


「はじめまして。商工ギルド会の長を務めております、ベネディクトと申します」


 だが、こちらを値踏みしている感じはビシバシ伝わってくる。


「どうもお忙しいところすみません。行商人をやっております、タクシと申します」


 座っているのは俺だけ。ムニスとオースは後ろに控えさせている。


「魔結晶に関する商談と伺っておりますが、あいにくと在庫はございませんで」

「いえ、買い付けではなく」

「まさかお売りいただけると?」


 芝居がかった調子でギルド長ベネディクトは驚いてみせる。在庫が枯渇してる状態での商談の申し入れだ。売り込みに決まっているだろう。わざとらしいことだ。


「ええ、まあ。商機と思い魔王領まで足を延ばしたのですよ」

「勇敢なことですね。よくご無事で戻ってこられたものですな」

「危険が大きかった分、収穫もありました」

「ほう」

「魔結晶の仕入れに成功しました」


 俺の言葉にベネディクトの目の色が変わった。

 よしよし、釣り針にはかかったな。



 以下、次回! 狐と狸の化かし合い。

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