06「聖剣は全知の幼女だった。何を言ってるかわからねーと思うがry」
大聖宮からの脱出はちょろい仕事だった。
手に持つ聖剣の指示通りに体を動かせばそれで事足りた。
飛び降りてからの着地、その後の逃走経路、裏道、管理区域外の脱出までもヨユー。
気のせいかもしれないが、身体能力を上げてもらってるような気すらする。
街道を走れるだけ走って、普通の人間の足で半日はかかるだろう距離を走破したところで体力の限界を迎え――ついでに日も暮れ――たので、街道沿いの宿に入った。
金は女神が持たせてくれた金は無事使えた。良かった良かった。
そして今、宿の部屋で聖剣に語りかけている変な男が俺だ。
「なんなのお前。聖剣ってそんなすごいの? 俺へし折っちゃったけど」
『大丈夫じゃ。剣は器。我は全知の光なり』
「はあ。全知」
総てを知る者、ってか。
「じゃ、俺の名前は?」
『知らぬ。異界からの来訪者の姓名までは我は知らぬ』
「おい全然全知じゃねえじゃん」
『む。我は全知。この世界の理を統べるものよ』
「わかったよ。気を悪くしないでくれ。じゃあ自分で名乗るわ。俺は渡良瀬卓志。タクシって呼んでくれ」
『ふむ、タクシよ。我、タクシと契約するもの。全知の神剣、銘は無い』
すると、聖剣が輝き不思議なことが起こった。
光の粒子は霧状になり俺が握っていたはずの聖剣の握りの部分は、幼女の掌になっていた。
全裸の幼女の。
ぷにぷにのてのひら。
「タクシ、我に名を与えよ。一番いい名前を頼む」
名前をつけろ、ね。
全知の聖剣は、めちゃくちゃに美形だった。
べらぼうに長い金髪。
恐ろしく蒼く澄んだ瞳。
真っ白な肌。
全裸なのは条例的にも俺的にもアレなので、ひとまずベッドのシーツを巻き付けてやった。
で、名前。名前ねえ。
「ゼンコ!」
「没じゃ」
「聖子!」
「アイドル歌手かの」
「オマエ、本当は俺のいた世界の情報把握してるんじゃないか?」
「……」
「だんまりかよ!」
「次じゃ!」
「ヒジリ」
「聖という字をそう読むのだったかの。いや、これは異世界のことを全知しているのではなく以前に聞いた話じゃがの」
「ガバガバだなオマエ」
そんで「全知している」って動詞もまたスゲエ響きだなしかし。
「シルコ!」
「コの字を最後につけるのは最近の流行りではないぞ。タクシの世界では」
「もう隠す気ねえだろ」
「タクシが我を握っていた間にタクシの知識を垣間見たに過ぎんのじゃ。全知には程遠いのぅ」
なるほど。そういう裏技があるのか。
「んー。そうだなー」
そろそろネタ切れだ。
びしっと決めてやらないとな。
「ムニス」
「ふむ。ムニス。全知はタクシの世界の共通語ではオムニセンス、だったかの。それを縮めてムニスか。安直じゃの」
「オマエ、本当は俺の名前把握してただろ?」
俺の詰問には空っとぼけて全知の聖剣はニッと笑って頷いた。
「よかろう。安直だが気に入った。我はタクシの剣、ムニスじゃ」
ようやくお気に召したらしい。
笑顔可愛いやんムニス。
「じゃ、これからよろしくなムニス」
「うむ」
「いきなり質問で悪いんだがな」
「構わんぞ、剣の主よ」
「聖剣を持った俺に、そもそも魔王討伐なんてことは可能なのか?」
以下、次回! 無理なら無理と言ってくれていい! やる気もないし!