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58「剣の切っ先」


 お姉様、ってことは、えーと、


「ムニス、オマエ妹いたの?」

「おらぬ。そんな(モノ)などおらぬが、こやつは……」

「お姉様! ついに見つけましたよ! 今度の主は人間なんですか!? なんかすごい弱そうですけど!」


 ムニスは、抱きついてくる自称ムニス妹の長身の体を引きはがしながら、


「こやつはの、主殿がへし折った我の切っ先よ」


 と言った。


「えっ」


 はい?


「妹というか、我の半身というか、残り滓というか、そんなようなもんじゃの」

「あー、ひどいですお姉様ー!」

「お姉様と呼ぶでないわ!」


 あー、なんかクソ女神も大聖宮の台座に刺さってた神剣の残りが行方不明とかホザいてたなあ。

 行方不明どころか手足生やして逃げ出してんじゃねーか。


「ところでお姉様、その人間殺してもいいですか? お姉様に対して態度悪くないですか?」

「殺気垂れ流すのやめて!?」


 怖いから!


「やめんか馬鹿者。タクシは我の主じゃからの。我の妹だと言うなら我と共に主の剣となれ」

「ぶー。お姉様がそういうならそうしますけどー」


 物騒なヤツである。


「えーと、そんでキミ、名前は?」

「問われて名乗るもおこがましいですけど、名前はまだないです!」

「我が無銘だったのだから当然よの」

「うーん。だいぶ変な子だな、ムニスの妹」


 戦闘力は異常に高いけど。


「だから残り滓だと言っておろうが。あと妹ではないわ」

「もういいじゃん、面倒だから妹で」

「なんかひどい言われようですー!」

「名前、どうしようか?」

「主殿が名付ければよいじゃろ。我の名ほど良いものでなくて構わんのでな」

「お姉様ひどーい!」


 名前かあ。どうしようか。


 などと深く悩むこともなく、


「じゃあオースで。オマエは今日からオースな!」

「ま、そんなもんじゃろ」

「やっぱりひどーい!」


 物騒な仲間が増えてしまった。

 ていうか仲間か……?


「名前つけといてこんなこと言うのもアレなんだけど、オマエついてくるの?」

「当たり前です! お姉様のいるところが私の居場所です!」


 なるほどごもっとも。言うことさえ聞いてくれれば戦力的には申し分ないよな。


「ムニス、オマエはどう思う?」

「タクシが許すのであれば同道することを認めんではないがの。オース、我が主の邪魔だけはするなよ」

「はーい!」


 不安の残る返事の仕方ではあるが、まあいいか。

 じゃあとりあえず、


「一旦シェイルのとこに行こうと思うんだけど。顔見せろって言ってたし」

「ほう、殊勝な心掛けじゃの」

「顔見せ半分、情報収集半分ってとこだけどな」

「前言撤回じゃの」




 そんなわけでシェイルの鍛冶工房にやってきた。


「ちわー」

「邪魔をするぞ」

「うわ、あっつ! そんでせっま!」

「よく帰ったな、タクシ。無礼な奴が一人増えているようだが……。ムニス様、お帰りなさいませ」

「なんとか無事に帰って来たよ。あ、この背の高いのはオースって言うんだけど」

「お姉様、この失礼なエルフはなんですか?」

「お姉……様?」


 おお、シェイルがびっくりしとる。珍しい。


「俺がブチ折ったムニスの剣の切っ先がコイツ」

「ま、真実(まこと)か……」

「真実です。残念ながら」

「失礼いたしました! オース様!」

「ふふん。わかればよろしいですよ!」


 うわ、腹立つ。


「オースはムニスと違ってだいぶ残念な子だからそんなにかしこまらなくてもいいよ」

「うむ。そのとおりじゃの」

「ひどーい!」

「まあオースのことは鉄砲玉――じゃなくて護衛だと思うことにしてるよ。そんでさシェイル、小剣の手入れを頼みたいんだけど」

「見せてみろ」

「ほい」


 腰の二振りを渡す。

 シェイルはそれらを一目見ただけで察したようだった。


「魔王領でそれなりにやらかしたと見える」

「や、わりと平穏無事だったよ?」

「まあ『わりと』じゃがの」

「これくらいならばすぐに手入れできる。座って待っていろ」



 以下、次回! 


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