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57「ショートカットで戻ってきたらストーカー行為を受けるなど」


 転送門(ゲート)の光が消え視界が開けるとそこは草原のまっただ中だった。


「どこだここ」

「ふむ、辺境領の外れじゃの」


 ムニスが目を閉じて何かを探るようにしている。

 おそらく全知の力を使っているのだろう。


「――もう少し東に行けば街道に出るじゃろ。二、三日も歩けば中央自治区に辿り着く距離じゃな」

「二、三日か。まあ()()()()()()()

 

 転送門からは予定通り三日の行程で中央自治区に戻って来た。

 ごちゃついた街並みと雑多な人種が入り混じる光景がちょっと懐かしい。


「相変わらず人が多いな」

「のうタクシよ」

「ん?」

「おぬし、中央自治区を支配すると魔王に言っておったであろ?」

「ああ」

「どうするつもりじゃ?」

「そうだな。とりあえず順番に片付けていく」

「何をじゃ?」


 不審げな表情をするムニス。信用ってものがないね。


「この街の自治を担ってる自称権力者を、だな。そいつらは別に公的な機関じゃないだろ。権力の空白地帯を勝手に牛耳ってるだけだ。だからそういう連中を順番にカタにはめていくんだよ。俺《勇者》に逆らえないようにな」


 俺はそう言って邪悪な笑み浮かべた。

 ムニスも悪い顔になって、


「勇者の所業とは思えぬが――」

「思えぬが?」

「――実にタクシらしい」


 くっくっ、と笑った。


「そりゃどうも。ところでさ」

「うむ、主殿も気付いておったか」

「なーんか尾行(つけ)られてるよね、俺ら。ストーカーか何かかね」



 ストーカーとは言ったものの、中央自治区に着いてそうそう追い回される覚えはない。

 まだ俺は何もやっていないのだ。


「つけてきてるのは一人だな。東からの追手って可能性が一番ありそうな線だけど」

「闇雲に探しておった者がたまたま我らに行き当たったというつもりかの? それは少々無理があると思うがの」

「他に何かあるか?」

「……あると言えばある、かの」


 苦い顔をするムニス。珍しく歯切れが悪い。

 ストーカーは一定の距離を保って俺たちの後をつけてきている。これでは鍛冶屋シェイルのところにも行けないし、諸々の仕込みもできない。


「まあ、撒くのは無理そうだし、とりあえず顔でも拝むかね」

「そうじゃの」


 俺たちは大通りから外れて道を曲がる。

 一本、また一本と道を入っていくたび徐々に人気がなくなっていく。


「……次の角を右に折れるとやや開けた場所に出るかの」


 全知がそう教えてくれる。


「了解」


 そろそろ頃合いだな。

 予定通り、建物に囲まれた裏路地の開けた空間。

 そこの真ん中でくるりと振り返る。


「さぁて」


 長身。フード付きのマントを深く被っていて顔や体型はわからない。

 男? いや、女か?


「ずっと後ろをついてきてくれてるけど、なんか用かい?」

「……」

「だんまりかよ」

 俺がぼやいた次の瞬間。


「タクシ! 避けよ!」


「ちっ」


 いつの間にか間合いを殆どゼロまで詰められていた。顎を狙った掌打を紙一重で躱す。ごろごろと地面を転がって態勢を立て直す。


 (はや)い。


 そいつはもう次の動きに移っていた。訓練されていない雑な足運びで俺に迫ってくる。以前にどこかで一度見たことのある動き。そうだ。前に中央自治区に来た時の闘技会で、だ。


 たしか予選第四組の無手の女!


「ムニス! 来い!」


 直後、右手に馴染む感覚。

 相手の狙いは読めている。急所狙いだ。

 俺はその掌打に神剣(ムニス)でカウンターの一撃を合わせた。


 斬った!


 だが、斬撃の手応えは無かった。

 相手は手も切れておらずず、血も出ていない。

 代わりに金属のぶつかり合う音が耳障りに響いた。


「なっ!?」


 金属音だと?


『タクシ、一旦戻るからの』


 俺の疑問をよそにムニスが勝手に人型に戻った。

 俺とストーカー女との間に割って入り、


「双方やめよ」


 とだけ告げた。


 俺は臨戦態勢を解かなかったがストーカー女は目を潤ませて、


「やっと会えましたねお姉様!」

「誰がお姉様か!」


 珍しく、本当に珍しく、ムニスが怒鳴った。



 以下、次回! ムニスをお姉様って呼ぶってことは、えーと? 誰?

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