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56「勇者の秘密の悪だくみ」


 俺の言葉から何かを察した魔王サマ。


「敵というのは人間か。例の神託の巫女とかいう、貴様と同じ転生者の」


 もう知ってたのか。俺の時といい、情報収集の速度が尋常じゃないな。


「ああ、あいつは俺の敵だ」

「ほう。転生者同士の因縁か」

「主殿、そこまで言わなくてもよいのじゃがの」

「あ、そう?」

「もう遅いわ」


 やれやれ顔のムニスに魔王サマは同情的だった。


「苦労が絶えぬようだな、全知の」

「これでも随分マシになったんじゃがの」

「本人の前でそういうのやめてね! 結構傷つくからね!?」

「ようやくいつもの主殿らしくなってきたの」

「ソウデスネ」


 イジられてるのか気を遣われてるのか。両方か?


「転生者のいざこざに魔族を巻き込むのは赦さぬからな」


 魔王サマが釘を刺してくるが、


「わかってるよ。言われるまでもねえ」

「ならばよい。転送門(ゲート)は好きに使え。コーネリアは馬車で帰らせるが、それで良いな?」


 それについてはムニスが首を横に振った。


「否、しばらくこちらにいた方が安全じゃの。万一、我が主が失敗すれば(人間)は魔王領に攻めて来るかもしれんからの」

「なるほど」

「陛下もその方が気が休まるじゃろ?」

「全知の。余計なことを申すな」

「すまんの。主殿の影響での」

「なんでも俺のせいにするのやめようか!」


 俺の抗議は完全にスルーされ、魔王サマはこう言った。


「事に当たって、何か他に要る物があれば今申せ。可能な限りの支援をしよう」


 ありがたい話だ。


「レンドルフとレオンハルトさんを借りるかもしれない。人員はまあ俺とムニスでなんとかするからいいよ。それより――」


 ここぞとばかり幾つかの頼みごとをする。

 魔王サマは頷いてくれた。


「――よかろう。余の名で指示を出しておく」

「マジ助かるわ」

「精々余のために励むことだ」

「自分のためでもあるんでな」


 頑張るしかないんだよな、コレが。


「期待しているぞ、勇者殿」





 ――秘密の会談が終わって。

 俺たちは魔王サマ直々に転送門(ゲート)まで案内された。

 謁見の間の裏手にある隠し扉を押し開くと細い通路があった。


「ほえー」

「やはりこの先よな」


 素直に驚く俺の横でムニスは満点の答案の答え合わせをしているような顔だった。


「魔王にしか伝わっておらん転送門なのだが」

「くふ。再度言うが全知を侮らんことじゃの、魔王陛下」

「流石と言っておこうか」

「くふふ」


 割と仲良いよなこいつら、とか思いながら薄暗い通路をしばらく行くとやや開けたスペースに出た。中心部には魔法陣がぼんやりと光っているのが分かる。


「おお、これが」


 転送門ってヤツね。門とは名ばかり。


「魔王にあるまじきことではあるが、万が一に備えての逃走手段なのだ」

「魔法陣を見るにやはり片道じゃの。行先の設定は任意ときておる。便利じゃの」


 俺にはさっぱりわかりませんが、


「全知の力おそるべしだな」


 と魔王サマは仰ったからどうやらムニスの言う通りらしい。


「さあ、魔法陣に乗るがいい」

「うむ」

「これでいいのか?」

「転送門の行先は辺境領の外れで良いのだな?」

「なるべく街道沿いで頼めるか?」

「わかった」


 魔王サマの両手が光る。

 同時に、魔法陣の光が強くなる。


「それではな。吉報を待っておる」

「おう」


 俺とムニスの体がふわりと宙に浮いた。

 魔法陣の光はどんどん強くなる。

 船が波に揺られるような、不確かな感覚を得た。

 そして、視界が真っ白になった――



 以下、次回! ワープした先には見たこともない危険が、とかだけはやめていただきたい所存。


次から第五章です。よろしくお願いいたします。

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