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55「魔王様との二度目の会談」


 今日の魔王サマとの密談にはムニスの同席を許してもらえた。

 通されたのは謁見の間ではなく、小さな会議室のような部屋だった。


「昨日はよく眠れたか?」


 眠れてはないなあ。

 その代わりに、


「ちょっとしたトラブルはあったけど、おかげで今後の方針が決まった」

「ほう。それは重畳」


 面白そうに魔王サマは笑う。

 その笑みに俺も意図的に笑みを作って返しながら、


「それでさ、昨日の話なんだけどさ。ちょっと考えたことがある」


 と言った。


「ルッヘンバッハ家の長男の処刑の件だな。恩赦を与える見返りについて、目処がたったか?」

「目処ってわけじゃねえんだけど――」


 一息。

 決めたことだ。

 躊躇わずに言え。


「――魔王サマの望む世界づくりに俺が貢献する。これでどうかね?」


 言った。言ってやった。

 魔王様は頭の上に「?」を浮かべている。

 あー、そういうリアクションになるのか。なるほど。


「……余には貴様の言っている意味がさっぱり分からん」


 そうですか。

 じゃあ、言い直すか。


「俺がこの世界を平和にしてやる、って言ってるんだ」

「…………」


 あれ? まだ通じないか?

 魔王サマは俺ではなくムニスの方に顔を向けて問うた。


「全知の神剣よ、貴様の主は馬鹿なのか?」

「これが全く本気で言っておっての。大馬鹿者じゃろ?」


 くつくつと笑うムニスに、魔王サマは呆れたと言わんばかりに笑みをこぼした。


「そうか、大馬鹿か。ならば仕方ないな」


 納得すんなよ!


「よかろう。ただしいつまでも処刑を先延ばしにはできん。なるべく早急に一定の成果を出してもらわねばならんが、できるのか?」


 一定の成果、ね。

 まあそりゃそうか。

 俺はこの後のことをざっくり考えてみて、


「そうだな、辺境領の警戒線任務が殆ど必要無くなる、っていうのは成果になるか?」

「そんなことが可能なのか?」

「そのために必要なことをこれからやるんだよ」

「何をやるのだ? 申せ」


 急かすなよ魔王サマ。

 俺はきっぱり、はっきりと言い切った。


「大陸中央の空白地帯――中央自治区を、俺の支配下に置くのさ」


 ほう、と魔王が嗤った。

 ひとまず興味を引くことはできたようだ。


「中央自治区を支配、とはこれはまた大きく出たな」

「まあ見てなって」


 魔王サマの試すような視線に俺は自信満々に頷いて見せる。

 実は内心ドキドキしている。

 そんな俺の胸中を察したわけでもないだろうが隣のムニスが、


「さて魔王陛下」

「なにかな、全知の」

「我が主の目的達成には時間が何よりも惜しまれるのでな。転送門(ゲート)を使用させて頂けまいか」


 ムニスの言葉に魔王サマが感心の息を漏らした。ゲート?


「伊達に全知を名乗っているわけではないようだな」


 ムニスはふん、と鼻を鳴らす。


全知()も侮られたものじゃの。魔王の宮殿(ここ)から魔王領のあちこちへの片道専用の転送門があるのは承知しておる。呑気に馬車で来た道を戻っている暇は無いのでな」

「何をそんなに急いでいるのだ?」


 それについては俺が答えた。


「理由はふたつ。ひとつは急いで中央自治区に入ってあれこれ仕込みたい。もうひとつは敵がいる。ヤツが何かはじめる前に先手を打ちたい」

「ほう」


 魔王サマは何かを察したように頷いた。



 以下、次回! 転送門とか便利なモンがあるのね……。


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