52「深夜の胸糞トークは終わらない」
自称女神のリクエストにお応えして俺は言い直した。
「あのメンヘラ女に何があって死んだのか教えろください」
「まあ、いいでしょう」
不承不承、といったふうに自称女神は頷き、
「あなたが殺された後も、あなたの体は包丁で繰り返し丁寧に切り裂かれていました。なんというのでしたっけ? あなたの世界で言うところのハモの骨切りのように」
くそったれだなあのメンヘラ女もこの自称女神も。
「そこへあなたの彼女が買物から帰宅しました」
「っ!」
まさか!
「そこで真那が殺されたんじゃないよな!?」
「ええ。あなたを殺した女性は笑顔であなたの死を告げ、それを聞いたマナさんでしたっけ? そのあなたの大切な女性は精神に深い傷を負いました。その場ですぐに気を失いましたよ」
なます切りどころかハモの骨切り状態の俺の死体か。見たらそりゃそうなるよな。
「その後、心を喪くしたマナさんはあなたを殺したメンヘラさんから介護を受けることになります。それはそれは献身的な、ね」
メンヘラ女が、真那の介護だと?
「ちょっと待て。俺を殺したメンヘラ女がどうして逮捕されてないんだ!?」
「あなたに対する正当防衛を主張したそうですよ。マナさんは話すこともできない状態で言ったもん勝ちだったようですね」
「ガバガバすぎるだろオイィ!」
元の世界でも犯罪者扱いか俺は!?
だが、そんなことより大事なことがある。
「真那は今どうしてる? それにまだメンヘラ女の死に様を聞いてねえぞ」
「話の続きはまだあります。少し落ち着いてはどうですか?」
これが落ち着いていられるか!
「マナさんはつい先日、病院で意識を取り戻しました」
明るい調子でクソ女神が言う。
嫌な予感しかしない。
だが、聞くしかない。
「その時メンヘラさんは林檎の皮を剥いていました。真っ赤な林檎の皮を」
何が可笑しいのか、クソ女神は実に楽しげだ。
「これは私の想像ですが、あなたの血の赤と死体の肌の色がマナさんの脳裏にフラッシュバックしたのでしょうか。マナさんは絶叫し、メンヘラさんに掴みかかりました」
「……真那は、どうなった? メンヘラ女は真那がやったのか?」
「いいえ。マナさんは返り討ちに遭いましたよ。顔以外の全身を切り裂かれ」
「死んだのか!?」
「それもいいえ、ですね。マナさんは生きていますよ。意識不明の重傷ですが」
良かった……。いや、全然よくない。よくないけど、死んでしまうよりはずっとマシだ。
だが、それなら、
「メンヘラ女は誰が……?」
答えは自称女神がうすら寒い笑顔と共に寄越してきた。
「マナさんを切り刻んだ果物ナイフをマナさんに握らせ、その手を上から握り自分の頸動脈に当てて切り裂きました。そして亡くなりました。以上です」
以上です、じゃねえんだわ。
「これで悪い知らせか……。最悪じゃねえか。もっと悪い知らせがまだあるってのかよ」
以下、次回! 胸糞話はまだ続くらしい。




