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51「真夜中の訪問者」


「起きてください」


 聞きなれない、けれどどこか聞き覚えのある声が耳朶を打つ。


「タクシよ、おぬしに来客じゃ」


 ムニスが俺の体を揺する感覚で俺はようやく目を覚ました。


「来客? 俺に?」

「お久しぶりです。世界を救う気のない勇者さん」


 女。美人の。だがどうにも好きになれない笑い方。


「誰だ?」


 気色の悪い既視感(デジャヴュ)は増すばかり。

 いや、既視感じゃない。

 こいつは「お久しぶり」と言いやがった。


 俺にも確かに見覚えがある。いつかどこかで。

 いつ視た?

 どこで遭った?


「知らん奴じゃったか。すまん、タクシの名を知っておったのでな、うっかり通してしまった」

「ムニスは悪くねえよ。で、アンタ誰?」


 というか何者だ?

 ここは魔王直轄領のど真ん中、魔王サマの宮殿の客間だ。

 気軽にお宅訪問できる場所じゃないはず。


()()()()

「は?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 思い出した!


 よく見れば確かに死んだときに謎空間で会った女だ。神を自称するクソ女。


「ちっ、あの時のクソ女神か。いたなそんなヤツ」

「女神にクソとか言わないでくださいね。それに舌打ちも。()()()()のも大変なのですよ」

「やかましいわ。こっちの話聞かずに勝手に転生させといて何ホザいてんだ」


「本日はお知らせがあってきました」


「この人の話を全然聞かない感じ! あの時の自称女神サマに間違いねえな!」

「自称ではなく本当に女神です。本日は悪い知らせともっと悪い知らせがあるんですけど、どちらから話しましょうか?」

「フツー良い知らせと悪い知らせなんじゃないのか、こういった場合」

「悪い知らせの方はひょっとしたらあなたにとっては良い知らせかもしれません」


 にっこりと微笑む自称女神。

 薄っぺらな、全く信用のできない笑顔。

 神は神でも、悪神だと俺は思っている。


「……じゃあ、悪い方からでいい。言ってみろよ」


 ベッドから起き上がり、立ったまま言ってやった。椅子を勧めてやる義理は無い。


「では」


 コホンと咳ばらいをして自称女神はこう告げてきた。


「あなたの死因(きっかけ)となった女性が亡くなりました」


 は? なん……だと……?


 あのメンヘラ女が死んだ……?

 今更どうでもいいといえばどうでもいい話だ。

 だが、自称女神がわざわざ()()とやらをしてきてるってことは何かの意味か理由があるに決まっている。


「死因は?」

「刺殺です」


 あの俺を刺した包丁でか?


「まさか自殺したのか? あのメンヘラ女が」

「詳しくお話しても私は構いませんが、聞きたいのですか?」


 このクソ女神、表情は笑ってるが目はちっとも笑ってねえ。


 なんだ。

 あっちの世界で何があった。

 あのメンヘラ女、()()に何かしやがったのか?

 俺が死んでこの世界に来る前、最後に見た彼女――真那(まな)は「買物行ってくるね」と笑って出掛けていった。

 帰って来た時には俺の死体とご対面な上、メンヘラ女のオマケ付きだ。

 たとえ何かよくないことが彼女の身にあったとして今の俺に何ができるわけでもない。だから意図的に考えないようにしていたが――、くそったれ。


「主殿、呼吸を整えよ」


 ムニスの柔らかい手の感触。

 手を握られてようやく我に返り、息をするのも忘れてびっしりと汗をかいていた自分に気が付いた。


「すまん、ムニス」

「構わぬよ」


 ムニスは柔らかい笑みで頷いてくれた。

 自称女神のうわべだけの笑顔とは全然違う。

 俺は言われた通りに深呼吸をした。


 自称女神はムニスを興味ありげに見やり、


「聖王宮の聖剣ね、あなた」

「我が主に害を成すなら神とて容赦せぬぞ。覚悟しておくことじゃの」

「あらあら、嫌われたものですね。私のおかげで主様に巡り逢えたのでしょう?」

「おいクソ女神、ムニスで遊んでんじゃねえ」

「あなたの深呼吸が終わるのを待って差し上げていたのです」


 いちいち癪に障る言い方しやがる。


「もう大丈夫だ。だから、あのメンヘラ女に何があって死んだのか教えろ」

「教えてください、でしょう?」


 いちいちムカつく女神だなあ、オイ!



 以下、次回! いいからさっさと喋れよ!


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